海の底から

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『君.に.届.け』SSその1 カン違い

 これは、椎.名.軽.穂 原作の漫画『君.に.届.け』の二.次.小.説です。
 原作者、出版社とは、一切関係ありません。

 原作のイメージを壊されたくない方、ネタバレをご覧になりたくない方は、ブラウザバックでお戻り下さい。
 
 
  【 カ ン 違 い 】 ~爽子と風早、高校2年生・7月頃のお話~


 風早翔太は驚愕していた。
 昼休み終了の鐘と共に、級友と教室に戻ると、ありえない光景を目撃したからだ。

 同じクラスの黒沼爽子と三浦健人が、キスしてる!
 …風早は一人、茫然と扉に立ち尽くした。

「あ、風早くん、お帰りなさい」

 気配に気付いた爽子が、クルッと振り返ると、笑顔で風早を出迎えた。

「よっ!お帰り~彼氏。ちょっと彼女借りてるよ」

 ひょいっと爽子の肩越しに顔を上げたケントも、陽気に声を掛けた。
 風早は、二人の声で石化が解けると、動揺を抑えつつ聞いた。

「く、黒沼、何やってんの?」
「えっと、師匠のボタンが、取れてたので…直してたの…」

 そう言うと、爽子は手に持っていた針を再び動かし始めた。
 爽子は、健人を机に座らせ、シャツの1番上のボタンを繕っていた。
 健人の胸元にかがむ爽子の後ろ姿は、風早を誤解させるのに充分な体勢だった。

「貞子ちゃんの仕事ぶりは早くて丁寧!将来いい奥さんになるよ~」
「いや そんな!師匠 とんでもない。ほめすぎです」

 爽子は健人を「師匠」と呼ぶ。
 人と接するのが苦手な爽子は、明るく人懐っこい健人をお手本にしていた。

 健人は爽子を「貞子」と呼ぶ。
 初めは爽子を揶揄して付けられたあだ名だったが、親しい友人にとっては愛称となっていた。

 針の先を凝視して作業を続ける爽子と、かまわず談笑する健人の様子を、風早はただ黙って見ていた。

「あれ~?彼氏妬いてんの?これくらいで怒るなって。
 も~、貞子ちゃんのことになると、人が変わるんだから~」
「ばっ…!妬いてねーよ!それに怒ってねーし!」

 風早は健人の突っ込みを、慌てて否定した。
 ふと視線を感じると、作業を終えた爽子が、物問いたげにじっと見ていた。

「三浦の奴、何ふざけたこと言ってんだろな。
 ホント、怒ってねーから! んじゃ、また後で」
「あ……」

 爽子にほほ笑みながら答えると、風早は自分の席にドサッと座り込んだ。
 5時間目のチャイムが鳴り響く中、風早は努めて平静を装いつつ、爽子に向かって手を振った。
 爽子もぎこちなく手を振ると、困ったように視線を泳がせ、そそくさと裁縫道具をしまった。

 気まずい…
 風早は、以前爽子に言われたことを思い出していた。

 『風早くんは誰に対しても平等』

 だがそれは爽子の方だと、風早は思っている。
 爽子は人の役に立とうと、いつも頑張る。
 誰に対しても、どんな仕事でも全力を尽くす。

 それは素晴らしい行為ではあるけれど、爽子が健人に親切にするのは嫌だった。
 これが嫉妬だと気付いてから、随分経つ。

 風早は、余計な一言で周囲を混乱させる健人に一瞥をくれると、胸元のボタンを弄りながら、ため息をついた。

 -・-・-・-・-・-

 放課後、校舎脇の花壇に水をやるのは、爽子の日課だ。
 丹精込めて育てられた花は、ジョウロでかけられた水を反射して、きらめいている。
 あたりは夏の日差しに暖められ、草花と土の清々しい匂いに満ちていた。

「黒沼、水汲んできたよ」

 風早が、水をたたえたバケツを爽子の傍らに置いた。
 爽子とつき合うようになってから、風早も水やりを手伝うようになっていた。

「ありがとう、風早くん。あの…」

 爽子がためらいながら何か言おうとしている。
 風早は身構えた。

「ちょっと、じっとしててくれる?」

 …え、じっと?
 風早が戸惑っていると、爽子の手がすっと胸元に伸びてきた。
 思いもよらない行動にたじろぐと、爽子はシャツの1番上のボタンを取り外した。

「あれ?さっきは引っ張っても取れなかったのに」
「糸はもう切れてたけど、からまって取れなかったみたい。あ、あの…… ……」

 意を決して爽子は言った。

「わ、私でよければ、ボタン付け直そうか?」
「うん、頼む!」

 元気よく返事すると、風早は照れくさそうに笑った。爽子もつられて笑った。


 長い廊下を並んで歩きながら、風早は爽子に聞いてみた。

「昼休み、何か言おうとしてたけど、これのこと?」
「…うん。…ご、ごめんなさい!」
「え、なんで謝るの?」
「だって、皆の前で風早くんの服を繕うなんて…出来なくて…言えなかったんだもん」

(それで放課後まで待ってたのか)
 クスッと笑う風早に、爽子がすねた顔を向ける。

「あはは、ごめんごめん。そりゃ恥ずかしいよな。気にしなくていーよ」

 爽子は、風早の伸びやかな笑顔に胸をなでおろした。
 安心しきった彼女の表情に、風早もほっとしていた。
 てっきり健人のひやかしを気にしている、と思っていたからだ。

 爽子は教室に戻ると、風早に机に腰掛けてもらい、針と糸の用意をした。
 針穴に糸を通そうとするものの、手が震えてうまくいかない。

 爽子の態度が、健人の時とは明らかに違っていた。
 それは、風早を意識せずにはいられない、爽子の好意の表れだった。

「あれ?おかしいな。き、緊張しちゃって」
「ゆっくりでいーよ」

 張り詰めた空気をほぐすように、風早がのんびり言った。
 なんとか針に糸を通し、爽子はボタンを付け始めた。

 間近にある爽子の顔から、風早は目を離せずにいた。
 清楚な髪の香りと、かすかな息づかいに、胸が高鳴る。

「へー、上手。手際いいな、黒沼。」
「…そ、そんなことないよ」

 素直な賛辞に、爽子は赤くなった。

「ホントだって。学校祭ん時の俺の衣装も、黒沼が縫ってくれたんだろ?
 すっげー着心地よかった」
「えーっ、そ、そんな、ほめすぎだよ」

 謙遜する爽子の顔が、ますます赤らんだ。頬が上気してバラ色だ。

 一見、無表情に近いが、その献身的な振舞いや、生き生きした瞳の輝きから、爽子の気持ちが伝わる。
 極度に控え目な性格が、爽子の愛らしい顔立ちや、優しい心を隠してきたことを、風早は知っていた。

「……出来た」

 爽子は手早く結び目を作ると糸を切り、襟元を整えた。
 はっと我に返った風早は、爽子に見とれていたことに気付き、急いで視線を外した。

「あ、ありがとう!そんじゃ、帰ろっか」
「うん」

 爽子はひそかに呼吸を整えた。
 ずっと風早の視線を感じながら、指の震えを抑えるのに懸命だったのだ。

(こんなに長い間、風早くんに触っていたの、初めてだな)
 指先には、風早の首すじに触れた感触とぬくもりが、まだ残っていた。

 爽子がそっと風早を伺うと、二人の視線がぶつかった。

「やっぱり、わざと言わないでいるのはずるいよな」

 風早は、食い入るように爽子を見つめると、一気に言った。

「ごめん。さっきのウソ。
 黒沼が、三浦と一緒にいるトコ見て、カン違いして、ヤキモチ焼いた。
 黒沼は優しいから、誰にでも平等で親切なんだって分かってるのに。
 …ごめんな」

 爽子は風早をまじまじと見つめた。

「あ…あやまることなんてないよ。
 それに、平等なのは風早くんだよ。いつも皆に優しくて…」
「………皆じゃないよ。………黒沼だけ」

 爽子は、伏し目がちにつぶやいた風早の一言に驚いた。

 『平等になんて 一度も接したつもりない』

 風早に告白された時の言葉が、爽子の脳裏に蘇った。
 あの台詞は、クラスで浮いてる私に気を遣っていた…という意味だと思ってたけど、違うのかな?

「私だけ…とくべつ?」
「うん。あ~俺小さい奴。超かっこわりー」

 爽子は、あの言葉の本当の意味を突然理解して、可笑しくなった。
 あの時は意味を取り違えたため、ふられたとカン違いしてしまったのだ。

「なんだよー笑うなよー」

 ふくれっ面で抗議する風早に、爽子は必死で手を横に振った。

「ち、ちがうの!!決して風早くんを笑ったわけではなくて!」

 ちょっとからかうつもりが、予想以上の爽子の慌てぶり。
 風早はたまらず笑い出した。
 その笑顔は、お日様をいっぱい浴びたひまわりのよう。
 飾り気のない笑顔にひきこまれて、爽子もほほ笑んだ。

「こんな俺だけど、黒沼のこと、好きでいていい?」
「……うん。私も、大好き」

 風早はゆっくり近づくと、両腕で爽子を包み込んだ。
 夕日に照らされた二人の影は、一つに重なり合ったまま、いつまでも離れようとはしなかった。


 -・-・-・-・-・-

 ≪ あとがき ≫

 『君に届け』ファンの方も、そうでない方も、読んで下さってありがとうございました。
 これは、私が生まれて初めて書いた二次小説です。
 何でいきなりこんなものを書いたのかというと、『君に届け』に飢えてたからです。
 原作を何度読み返してもおさまらなくて、ネットを巡回してたら見つけたのが、

 君に届けRING (『君に届け』二次検索エンジン)

 最初は、いろんな方々の作品を貪るように読みまくって、ただすごいなぁ…と思うだけでした。
 でもそれが、うらやましいな…となり、くやしいな…自分にも書けないかな…となって、とうとうやってしまいました。
 お話を妄想するのは、楽しかったです。
 でもそれを形にするのは、苦しかったです。
 己の技量不足(特に萌えとユーモア)に足掻きながら、辞書を片手になんとか書き上げました。
 私も『君に届け』大好き!爽子と風早が大好き!って言えて、大満足です!
 

テーマ:君に届け - ジャンル:アニメ・コミック

  1. 2010/06/01(火) 01:11:49|
  2. 君.に.届.けSS
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:2
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コメント

し・・・さんへ!

 ようこそいらっしゃいました!
 ご丁寧なコメントに感激しました。 私なんぞにもったいないお言葉、痛み入ります。 やったー、ほめられちゃった!!

 私のSSは「君届っぽい空気」で「原作通りのまっすぐさ」…なのか、へえ。 言われて初めて気付かされました。
 多分、私の妄想は、原作の枠から出られないので、原作のままの爽子と風早なんだと思います。

 『カン違い』は、原作で爽子の誤解が解けたか、あいまいなままだったので、なんとか解いてあげたかったのです。
 今じゃ笑い話だろうけど、風早の告白は、タイミングが悪すぎましたw

 『メール』は、爽子がケータイを握りしめ、ドキドキしながら風早を想っている時、風早は輪をかけてドキドキしてるだろうな、してるといいな、と思って書きました。

 話変わって、うちのブログは全然毅然としてないですよ。
 例えるなら、噛むのに骨が折れる、固いおせんべい(^^ゞ 
 し・・・さんのブログは、口当たりのいい、ふわふわのシフォンケーキみたいですね。
 いつもおいしく頂いてます♫♪˙❤‿❤˙♫♪
 それでは、またそちらにお邪魔させていただきますね。 良いクリスマスを!!
 
  1. 2011/12/20(火) 06:56:05 |
  2. URL |
  3. 藍田海 #-
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  1. 2011/12/19(月) 13:49:04 |
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