海の底から

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『君.に.届.け』SSその2 勉強会

 これは、椎.名.軽.穂 原作の漫画『君.に.届.け』の二.次.小.説です。
 原作者、出版社とは、一切関係ありません。

 原作のイメージを壊されたくない方、ネタバレをご覧になりたくない方は、ブラウザバックでお戻り下さい。
 
 
【 勉 強 会 】 ~爽子、風早、千鶴、あやね 高校1年生・1月頃のお話~


「あーあ、なんで勉強なんかしなくちゃいけないんだろう?」

 図書室でテスト勉強をしていた千鶴が、あきらめ口調で嘆いた。
 そろそろ集中が切れる頃合だ。

 それでも飽きずに続けていられるのは、講師が優秀だからである。
 講師役の爽子は、千鶴のノートにチェックを入れていた手を止め、カバンを探った。

「疲れたね。 飴食べる?」
「食べる食べる!」

 途端に顔を輝かせる千鶴に、現金な奴…と苦笑しつつ、あやねも一息つくことにした。

 二月の期末考査に打ち勝つべく、爽子、千鶴、あやね達は、勉強会を開いていた。
 それを聞きつけた風早が飛び入り参加し、四人は賑やかに机を囲んでいた。

 皆に飴を配り終えると、爽子が口を開いた。

「…今まで知らずにいたことを知るのは、楽しいよ」
「そりゃ、爽子は頭いいから、苦にならないんだろうけどさ。
 いいじゃん、方程式知らなくったって、生きていけるし」
「まーね。覚えたからって、何も得することないもんね」

 千鶴とあやねの意見は、大部分の学生の実感であろう。
 しかし爽子は違った。

「知らないより、知っていた方が絶対得だよ!
 私、ちづちゃんとあやねちゃんと知り合えたから、毎日すごく楽しいもん!
 二人が、生きる楽しさを教えてくれたからだよ!」

 …方程式が、生きる楽しさにつながるとは思えないけど。
 二人は、どこかずれてる爽子の思考に呆れながら、言おうとしていることを理解した。

「それに、ちづちゃんやあやねちゃんが知ってて、私が知らないこと、たくさんあるよ!
 おいしいラーメンの秘訣や、オシャレの仕方を教えてもらえて、人生が豊かになったというか…。
 これからも、いろんなことを知りたいって思うよ。
 だから…」

 ひとつ知るたび、ひとつつながりが増えてゆく。
 もっと知りたいって気持ちが、強くなる。
 人と人との関係は、その積み重ねだ。

 相手を知るために、知識や経験を共有できれば、より深く分かり合えるだろう。
 人が完全に分かり合えることは、ないだろうけれど。

「数学は、考え方が鍛えられるんだよ。
 そうすれば、吉田は勘定の計算早くなるよ。
 龍ん家のバイトで役立つかも!」

 すかさず爽子を援護する風早の態度に、含み笑いをしつつ、あやねが言った。

「そうね。 これから出会う人の中に、
 数学好きなイケメン医学生が、いるかもしれないしね」
「そんな奴いんの?」

と、千鶴が突っ込む。

「いるかもって言ってんの。
 イケメンをつかまえるために、数学やっとくのもいいかな」
「おお、やのちんが野望に燃えている」
「なんだよ、それ」

 三人は、他愛ない話で笑い合った。
 きょとんとしていた爽子も、少し遅れて笑った。
 それが可笑しくて、再びみんな どっと笑った。

 爽子がいると、笑顔の輪が、いつも三つに広がった。
 爽子が笑うと、みんな無性に嬉しかった。

 -・-・-・-・-・-

 四人が学校を出る頃には、とっぷり日が暮れていた。
 風早は、家が近いからと遠慮する爽子を説き伏せ、送ることにした。

「女の子のひとり歩きは危ないよ。
 暗い夜道で何かあったらどーすんの!」

 そして、俺には気を遣わなくていいんだよ、という風に、小さく笑ってみせた。
 千鶴とあやねはニヤニヤしながら、二人とは別の道で帰って行った。

 恐縮しきりの爽子と、緊張気味の風早。
 白い息を弾ませながら、二人は雪道をゆっくり歩いた。
 夜空は、満天の星できらめいていた。

「あっ、流れ星!」
「えっ、どこ?」
「嘘。 ははっ、本当に流れ星来ないかなー」

 何気ない会話が、こんなにも楽しい。
 風早くんも、そう思っているといいな。
 爽子は、風早の横顔を、そっと窺いながら、思った。 

「あ、あれが多分、冬の大三角だよ。
 一番明るいのが、シリウスだね」
「へーそうなんだ。
 俺、オリオン座ぐらいしか分かんねーや」
「わ、私も、そんなに詳しくないよ。
 あとは、七夕の星くらいしか知らないもの」

 七月七日の夜、織女星と牽牛星の二つの星が、年に一度のデートを楽しむ七夕伝説。
 夏の風物詩であり、最もポピュラーな星の物語である。

「ああ、織り姫と彦星か。
 …年に一度しか逢えない恋人同士って、何か哀しいよな」
「今は真冬だから、織り姫と彦星は、七夕の夜を、待ち焦がれているんだろうね」
「でもさ、雨が降ったら、逢えないんだろ。 ショックだろうな」

 風早は、彦星になったつもりで、さもがっかりした素振りを見せた。

「あ、あのね、雨の日は、天の川があふれて逢えないって、私も思ってたけど、
 そんな時は、かささぎが橋になって、二人を逢わせてくれるんだって」
「えっ、そうだったのか。 やっぱ知らないと損だな。 なーんだ、よかったぁ」

 風早はほっと息をつくと、急に真顔になって言った。

「俺なら、好きな人と一日でも逢えないなんて、耐えられないけどな」

 じっと見つめる風早の視線に、爽子の胸がドキンと鳴った。
 聞いてみようか、と爽子は思った。

(好きな人…いるの?)

 聞きたい…けど、迷惑ではないかな。
 それに、聞くのが怖い。
 爽子は慌てて目線を逸らすと、星を見上げた。

 晴れ渡る、大きな空。
 それに比べて、人はなんて小さいんだろう。
 どうして些細なことに、くよくよしてしまうんだろう。

「…七夕の星、一緒に見たいな」

 ポツリと爽子がつぶやいた。
 こんな風に、ずっと一緒にいられたら…
 今の爽子に言える、精いっぱいの素直な気持ちを、風早に告げた。

「本当!?
 絶対だよ! ぜっったい! 約束な!」

 風早の必死の様相に、爽子は驚きながら、こっくりうなずいた。
 すると、風早は安堵の表情を浮かべ、小指を差し出した。

「そんじゃ、指きり!」

 爽子は、一瞬ぼうっとその手を見つめ、急いで手袋を外した。
 そっと差し伸べた爽子の細い指と、風早の武骨な指が、絡まり合う。

「「ゆーびきーりげーんまーん うーそつーいたーら
 はーりせーんーぼーん のーーっます!」」

 やがて二人の指は、名残惜しそうに離れた。
 指先のふるえと体温を、互いに残して。

 ガッツポーズをして喜ぶ風早は、無邪気そのもので、爽子も嬉しくなって笑ってしまった。
 不安に翳った爽子の目に、幸福の明りが灯った。

 青白い星が、北幌川の水面に淡く光っていた。


 -・-・-・-・-・-

 ≪ あとがき ≫

 夏は冬が恋しくなります。
 ということで、冬の話を。
 冬の寒さってどんなんだっけ? と、首をひねりながら書きました。
 早く涼しくならないかな。

~かささぎの 渡せる橋に おく霜の 白きを見れば 夜ぞ更けにける (大伴家持)~

 百人一首の歌をイメージしながら、帰り道の二人を想像するのは、心ときめく楽しい作業でした。
 内容は一応、原作11巻の初デート(夏のプラネタリウム)につなげたつもりです。

 『君に届け』を好きな方も、そうでない方も、読んでくれて、ありがとうございました。


------追記------

 カテゴリーに『君.に.届.け』を追加しました。
 

テーマ:君に届け - ジャンル:アニメ・コミック

  1. 2010/08/21(土) 12:46:15|
  2. 君.に.届.けSS
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