海の底から

備忘録

『君.に.届.け』SSその3 メール

 これは、椎.名.軽.穂 原作の漫画『君.に.届.け』の二.次.小.説です。
 原作者、出版社とは、一切関係ありません。

 原作のイメージを壊されたくない方、ネタバレをご覧になりたくない方は、ブラウザバックでお戻り下さい。
 (10/20 '11/1/15 加筆、修正)
 
  
【 メ ー ル 】 ~風早、爽子 高校2年生・7月頃のお話~


 北幌高校では、終業式が行われていた。
 体育館に居並ぶ生徒たちは、眠い目をこすりながら、あるいは隣の子とヒソヒソ話をしながら、校長の話を聞いていた。

 どの生徒も、夏休みへの期待ではちきれんばかり。
 そんな中、風早翔太は、姿勢正しく前を見ていた。

 いや、斜め前にいる、ひとりの女子生徒に見入っていた。
 そこには、やはり折り目正しく話を聞く、黒沼爽子がいた。

 服装の乱れひとつない、真っ直ぐな立ち姿。
 長い黒髪は、窓から差す陽を反射して、サテンのように輝いていた。

 風に吹かれて、長い髪が、軽やかにゆれている。
 まるで天使の産毛のようだ。

 ほっそりした身体を、なめらかに覆う黒髪は、爽子によく似合っていた。
 髪の間を透かして見えるうなじは、新雪より白い。

 肩甲骨は、折り畳んだ翼の名残だと、誰かが言っていたっけ。
 近くにいたら、あやうく触れてしまいそうなほど、きれいな後ろ姿だった。

 -・-・-・-・-・-

 教室に戻ると、さっそく風早の仲間たちは、遊びに行く計画を立てた。
 これから始まる自由時間に、誰もがウキウキと心弾ませていた。

 絶え間ない笑い声が、いつも以上に満ち溢れていた。
 しかし風早は、心ここにあらずといった感じで、ひとり視線を泳がせていた。

 そっと振り向くと、爽子と目が合う。
 賑やかな教室に反して、しんとした静けさが二人を包んだ。


「じゃあ また 講習で!
 連絡も するけど」
「わっ わ 私も…!」

 そう挨拶をして、風早は爽子と別れた。
 歩き始めると振り返り、バイバイと小さく手を振り合った。

 今日、風早たちは、カラオケに繰り出すことになっていた。
 爽子も、親友のあやね、千鶴と、仲良く連れ立っていった。

 -・-・-・-・-・-

 大音響のカラオケルームでは、皆が笑顔だった。
 歌う順番を待つ間も、昨日見たTVの話や、クラスメートの噂話で、盛り上がっている。

 風早も、表面上は他愛のない話に興じて、笑っていた。
 が、しばらくすると、携帯電話ばかり気にしていた。
 
「なーなー、どうなの?
 貞子とつき合ってみて。
 うまくいってんの? 楽しい?」

「ああ、うん。 楽しいよ。
 でも、黒沼シャイだから、色々喋ると怒られるっつーか、嫌われると困るしっ…!」

 友人の一人に、突然質問をされた風早は、恥ずかしそうに答えた。
 例え友人でも、正直に言えることには限度があった。

 はにかんで言い淀む風早に、友人も強いて聞こうとはしなかった。
 風早がマジでベタ惚れなのは明白で、からかう雰囲気ではなかったからだ。


 風早は、友人と別れると、さっそく携帯電話をチェックした。
 爽子からのメールは、なかった。

 爽子が内気で控え目な性格なのは、分かっているつもりだ。
 だが、相手のことを考えているのは、自分だけなのかと思うと、寂しさがこみ上げてきた。

 -・-・-・-・-・-

 風早は、重い足取りで自宅に帰り着いた。
 部屋のドアを閉めると、灯りを点けないまま、ベッドに身体を投げ出した。

 目を閉じると、徐々に他の感覚が研ぎ澄まされてゆく。
 風早の感性は、爽子を求めるように開かれていった。

 嗅覚が、髪の香りと、乳香のような吐息を。
 触覚が、華奢な身体と、すべらかな肌触りを。
 聴覚が、かすかに乱れた息づかいを呼び起こした。

 するとまぶたの裏に、鮮明に爽子の姿が浮かび上がり、その存在を強く感じた。

 だが、目を開ければ、部屋には自分ひとりきり。
 両手には今も、か細い肩と、柔らかな髪の感触が、残っているというのに。

 恥じらいながらほほ笑む爽子は、野山にひっそりと咲く、可憐な姫百合のよう。
 真面目で思いやりに溢れ、感激屋で頑張り屋で、いつも前向きで楽しそうで…。

 内面から発する明るさが、爽子の澄んだ瞳を、より一層キラキラさせていた。
 その光が、周りの人々をも明るく照らし、幸せな気持ちにさせた。

 風早の審美眼は、爽子の美しさをいち早く捉えた。
 彼女を想うと、泣きたくなるほどの憧れで、胸が締めつけられた。

 ひとりの人間について、こんなに深く考えるのは、初めてだった。

 胸の奥に秘めた思いを叫びたい。
 人目もはばからず、抱きしめたい。

 …不安と焦燥で焼けつく思いを、風早はそっと押しとどめた。
 爽子を困らせたり、泣かせたりするような真似は、もう二度としたくなかったのだ。

 初めて抱きしめた時、爽子は迷子のように震えていた。
 彼女が手の届かない場所に行ってしまうことを、風早は怖れた。


 心に忍び込む情念を、風早は無理矢理追い出すと、楽しいことを考え始めた。
 爽子と過ごす夏休みを想像するだけで、ワクワクする気持ちが駆け巡る。

 改めて携帯電話を取り出すと、細心の注意を払ってメールを打つ。
 内容は、爽子も大好きな風早家の愛犬・マルの写真を送ることにした。

 …我ながら平凡で、なんのひねりもない。
 彼女はどう思うだろう? 笑うだろうか?

 すぐに返信が来た。
『かわいいね、マルちゃん』
の一文に、爽子の柔らかな面影が浮かんだ。

 風早の口から、ほっと心地よいため息が、まろび出た。
 顔にはゆっくりと、ほほ笑みが広がった。

 今夜は、明るい月夜。
 同じ空の下で、同じ月を見ているだろう爽子に、風早はおやすみの挨拶を送った。

 ━━世界中の誰よりもいとしい君へ
    どうか安らかな眠りを━━


 -・-・-・-・-・-

 ≪ あとがき ≫

 「episode47.ちょっとだけ」(『君に届け』12巻収録)の補完話です。
 コミックスを何度も読み返してると、果てしなく妄想が広がりますね。(^-^;)
 それと、別マ11月号の萌えパワーがすご過ぎたので、思いを叫びたくなりました。
 あやねちゃんに、
「おまえの心情は どーでもいいわ!」
と言われた風早くんの心情がかえって気になり、うんうん唸って考えました。
 ここまで読んで下さった皆様、どうもありがとうございました。 感謝感激です!
 

テーマ:君に届け - ジャンル:アニメ・コミック

  1. 2010/10/18(月) 00:30:35|
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