海の底から

備忘録

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
  1. --/--/--(--) --:--:--|
  2. スポンサー広告

八木重吉 『花と空と祈り』より

 自分用メモ4。
(『日本の詩 八木重吉』 斎藤正二 編 ほるぷ出版 刊 より)
 
 
 Ⅰ 大正十一年

  ○

光が ありました
光は
哀しかったのです

あるとき
不幸な少女の胸に
そうっと 忍び込みました……

そのとき以来 その少女は
決して ほほえみませんでした――
小鳥のように軽やかには


 Ⅱ 大正十一年

  ○

自分は
「牧師」を嘲(あざけ)った
しかし
しずかに 考えてみると
「教師」(!)である
自分を 憎まずにはいられなかった

昼間
自分は いらいらと
生徒を罵(ののし)った――
彼等が
虫けらのごとく
豚のごとく みえたから

夜――
自分は
黙々として
自らを呪うた


 Ⅲ 大正十二年

  「真情」

玉を愛(め)でたし
皓(こう)たる玉を
愛でいつくしみたし

「真情」よ
曇り無き玉よ
いと小さきにてもよし!

撫で
すかし
ほおずりし
これを 捧げもちたし!!


 Ⅳ 大正十二年―十三年

  「キーツに捧ぐ」

 すべての季節は、秋を、つくり出さんがための過程(プロセス)とも、みえる。わたくしの、あらゆる、努力は、心の秋に、味到せんための、くるしみともみえる。すべては、無(ナッシング)なのか、それならば、その、無(ナッシング)の中へ、私の詩を、生み輝かそう。死のケーオスのただ中へ、わたしの詩を、さやかにも、盛り上がらせてやろう。
 私は、詩に於ける、友が無い。なんとも言えず、さびしい。ただ、キーツこそ、友である。私には、百年の時(タイム)は、感じられない。彼れは、一日として、私に語るのを、止めたことはない。
 ああ、私のゆく、この一筋の路の、しらじらと、いかに、廓寥としていることだろう。しかし、ゆくのだ、ゆくのだ。恋人のごとく、わたしは、喘(あえ)ぎ乍らも、まっしぐらに、ゆく。


  ○

いま おおぞらの どこらでか
たいへんな 人死(ひとじに)が あるらしい

さむいような しずかなような
しらちゃけた 空の ひろがり!


  ○

あさがおが咲くという しずかなるわざ
けさ このかくれたるかきねに いとなまる
ちからづよくもほがらかな
あけぼのに とつぎゆく 花嫁のかがやき

この花をみる わたしもまた
たちまち あさがおの花と 咲きいで
遠いおもいの 婚姻の 宴(うたげ)に うたう


  ○

みずみずしく 灰いろな あさの こころへ
こおろぎのこえが ほそく ながれゆく
とうめいな うるわしい しずけさのさなかを
銀色の むしの音(ね)が さざ浪となって なみだってゆくとき
そのしずけさは うれしさに すすり泣く
ああ しなしなと 弾力も まがなしく
誇りかに もすそを さばく 初秋(はつあき)の 少女にも似て
ああ ながされてゆく こえの さやけさ!


  ○

ふしぎ ふしぎ――
はりつめきって たえられぬゆえ
こころを はなして やったらば
あとの うつろへ なみだが うまれ
けだかいまでの ああ この すがた!


  ○

耳を すませば きこえてくる
ふかい こえの しずけさが
季節のこころから ながれて くる

かなしみをもつ 孤りなる 者の 胸にさえ
その かなしみこそ
おごそかなる 銀板(ぎんばん)となって ひびいてくる
それゆえにのみ
若者は 狂いもせずに なお あゆみつづけてゆく


  「平安な夕べ」

夕ぐれのこころは おそなつであるゆえに
うすあおい なつかしさに ながれていました
だが ただ なんとはなしに
ものがなしい ひびきが
さらさらと かるくぬうてゆくのであった
たいへん ふとった あかんぼと
わたしと ちいさいわたしの妻と
この夕ぐれの 風景を ゆくのでした
わたくしのこころには
いつものいらいらしさはありませんでした
わたくしは たいへん たいらかな心で
妻と あかんぼと ふうけいとを
しっかりと 抱きしめて あんしんしてあるきました


  ○

詩は わたくしを エゴイストにつくる
だが おじいさんの 病みほそったからだを洗ってやったとき
ちいさい妻の
はたらき疲れて うたたねする その横がおに みいったとき
そして むちむちと むしょうにふとる
わたしの もも子ちゃんを 抱きしめるとき
「わたしの詩より 大切だ!」と こころにさけんだ
詩は たとえちからづよい誘引であるにしても
それは もっとすばらしい磁力(マグネット)がくるまでの
一つの 小さい磁力にすぎぬようでもある


  ○

詩(ポエジィ)は 足のすばしこい 美少年だ
彼が 心躍る日は つばさが うまれ
ああ その しずかにもうるわしい羽音(はおと)をきいたなら
この少年を 恋しないなんて
そんな かたくなな 人間があるだろうか!?
ああ かけりゆく つばさがうつ 空界のひろさ
はてしなく 閃々(せんせん)と なみうつ
詩の海のほがらかさ かがやかしさ!


  ○

空のように きれいになれるものなら
花のように しずかに なれるものなら
値(あたい)なきものとして
これも 捨てよう あれも 捨てよう


  ○

歌うなら美しく
うたうなら
哀切に ほがらかに
だが
百姓の 倅ということを 忘れないように!


  ○

なにもかも 捨てきれはしないのだから
わたしは 完(まった)いものでは ありません
美しいもののすがたを 追うにつかれてはおりますが
きりすとの道(ことば)にはとおいのですから
それはそれは かなしいのです


 Ⅴ 大正十三年

  ○

かなしみのうみをゆくものなり
われは みゆるもの きこゆるもの
あらゆるものを 喰(は)みて あゆみき
かくてついに
わが世界は 荒れて 砂漠となり
それだにも いまはひたされて かなしみのうみと化(な)れり
枯れたれば 泪(なみだ)さえ わかず
わがこころ もだして坐す
されば このままにすぎゆくこともあらば
死よりもあしきいのちなり
されば あたらしき花をおもうや切なり


  ○

宇宙のこころはかんじている
いまの世はくちた世であると
そして あたらしい芽がこの世から出ないなら
焙(や)きほろぼすにしくはないと
偽善者やぬすびとだけがいけないのでもない
純情の人といえどもかなしき不具者である
ああ さむげに
ひかるように かんじている 宇宙のこころよ


  ○

朝(あした)あり 夕べあり これをよしとみられました
蒼空(そら)あり 水あり これをよしとみられました
幾千年がながれました
かなしみがわき のろいがわき
いのりとともに 蛇の舌がもえさかりました
きょうとても神はよしとみられておりましょう


  ○

「それならば 死は!?」
おもいきわまった日
こうみずからにつぶやいてみた
ああ ふしぎなちからよ
死のおもいは
灰色におもたい空のなかに
雨つぶがうまれてやがてすっときえるように
あまい憂愁にとけこんでゆく
あわれにも うらやましい
このわたしのこころの瞬間よ


  ○

春を惜しめば
かぎりなく さくらが白い
つかれはてた わがみではあるが
あじきない こころではあるが
こよい
はなやかによそおうた気分をつれてあゆんでゆこう


 Ⅵ 大正十三年

  ○

つかれたる日
死をおもう

おもき荷を負いたるひと
やすむがごとく


  ○

すべてをすてきれはしないのだから
かなしみのきゆる日はない
だがきょうははるであるゆえ
かるやかな野の心にひたってこよう


 Ⅶ 大正十三年

  ○

まったいものは
死のほかにないだろう
なにもないがゆえ
いらいらしさもあるまい
みかけのよいいつわりもあるまい
むなしいゆえ
こころはいっぱいにひろがれるだろう


  ○

わが子を
右のわきにかかえ
ちさき妻を
ひだりにかかえ
さむげに
おごそかにしろくかがやく木のうえをこえて
その木はふゆがれのごとく
いたずらにていていとたかく
葉はあらずして
いちめんにかがやくものをつけ
億劫のこころする
ひるなれどよるのごときこの山をこえ
ゆうべ
夢にそらをとんだ


  ○

これはじぶんのわるいくせだ
ひととはなしていても
だんだんとさむいような
しらじらしたような おもいがしてくる
じぶんもいやになり
あいてもいやになってしまう
そして そこいらじゅうが
ひびのいったぎやまんのかめのようにおもえてくる


 Ⅷ 大正十三年

  ○

なつのまちをゆけば
やわらかい燈(ひ)がうれしい
そして わたしのからだも
やさしく あかるみ
かすかに
くだものの かおりさえする


  ○

よのなかのひとがみいんな
ひとつの家にすまえたらいいのに
あたえるというきもちもなく
うくるというきもちもなく
ただ かんしゃし ただ いつくしみ
そして あらゆるものは
そうごんなしずけさにもえるのだ


 Ⅸ 大正十三年

  ○

あおぞらは
まんなかに心臓がある
こころくらき日
こころおもたき日は
まっすぐに空をあおげ
そこには 空のこころが生きている
地平にちかい空をみるな
そのあたりの空は老いさらばえた空である


 Ⅹ 大正十四年

  ○

ものおちついたふゆのまち
みずけもなくかんそうしてはいるが
すこしも痛々しくはないゆうぐれ
ほんにひさしぶりに児をだいて
そのふくよかな肉のだんりょくをかすかにうれしみながら
うすい月ののぼったひがしのほうへあゆむ
こんなたいらかな
こころのゆうぐれはほんとにめずらしい
いらいらとせぬひとときのかたじけなさ
電柱がすくすくとたかいのもあわあわしく
いたべいの垣からのぞく
植えこみのさくらの枝やひばの木もなごやかに
この街のとおりがつづくひがしもにしも
いずれの方がくへまなこをやっても
空と屋根と路と木と
いずれもみないちようのかんじにおちついている
どこといってとくべつにつよいトーンもなく
それでいながらすこしのゆるみもみえず
なだらかにやわらかいままにりりしい
こどもがあるくというのでみちにおろせば
コークスがちょんぼりつみあげてあるのへよちよちとのぼり
たちまちあちらへおりまたひきかえしてのぼり
もも子ちゃんもうかえろうよと手をひいてもなかなかいやだという
みちゆくひとびとにはなつわたしのまなこもよい
ねたましげにもなくものほしげにもなく
さげすみのかげもなくてこの風景のようにさやかに
いざかえりみちにつこうとしてまた児をだいて
にしにむかってしろいみちをくれば
ゆうげのけむりがちさいえんとつからただよう
こうしたわたしもまだあったのだ
おもえばひさしいおだやかなこころ


  ○

いざわが身のこととなったきょう
まずしさにやすんずることのなんとつらいこと
こころならずもまずしいゆえにいきどおり
ぐちもいいさもしいおもいもわく
いじけたこころはわれながらいじらしい
ひとすじのつよくはりのある心がよみがえらないなら
かいのあるいのちはとりもどしえない


  ○

詩はなにゆえにとうといか
なにものもうばうことのできぬせかいであるゆえ
かなしい日はかなしみのみちをゆきくらし
よろこびの日はよろこびのみちをゆきくらし
たんねんにいちねんにあゆんできたゆえ
かすかなまことがみえてきた
じぶんでみつけねばたれも力をかしてくれぬ
このひとすじのたびはつらかったが
こわたれぬせかいがすこしみえてきたかたじけなさ
わたしを殺さねばこのせかいはうばえぬ
わたしのようにくるしみ
わたしのようにめぐまれてあらねばこのせかいはみえぬ
いつの日からんらんとみえてくるだろう
いつかはっきりとうたをみることができるだろう


  ○

秋をほめたこのまえのとしは
わたしのこころにゆとりもあったが
ことしは冬がしたわしい
つれないまでにりりしい冬のこころが
わたしをきれいにうつくしくしてくれるから


  ○

かみさま
わたしのすべてのちからを
あなたをみるという
ひとつのちからにすべてください
あなたにかんしゃするという
ひとつのちからにすべてください


 「わ が 児」

いったんのいきどおりにわが児をなぐっても
泣きもせずにすがってくるわが児を またなぐっても
泣きもせずまたすがってくる おお


  ○

なぜ神様は女というものをつくったのだろう
なぜ男のこころに女を愛するというこころを植えたのだろう
なぜ人類を存続するのにこんないりくんだくるしみが必要なのだろう
透明なよろこびとてもないこの世を去って
透明な死のせかいをあくがれるなら
それはほんとうに神を瀆(けが)すものであるだろうか?
くるしみのほかには詩のせかいのない
この地上がほんとうにいいせかいなのだろうか?
よろこびはなぜこう消えやすくいつわりにみちてにごっているのだろう
なぜ人間はちいさなちいさなものをさげて
だれもかれもいちばん「なくてはならぬ人」の様な顔をしてゆくのだろう


 XI 大正十四年

  「草」

こんな草なんか
なぜ人間は羨ましいのだろう
ほかの者のいうことなど少しも気にかけず
力いっぱい生きているせいだろうか


  「満 足」

何んにも無くて
それで満足がなければ
ほかのことでは満足はない


  「桃 子」

いらいらして
桃子に拳骨をくれて
父っちゃんこわいかと聞いたら
こわいと言う
いい父っちゃんかと聞くと
いい父っちゃんと言う
だらしの無い
そのくせとても敵(かな)わない考えだ


 『ジョン・キーツ覚書其の他』より

  ○

 若き人として、あこがれの人として、キーツをおもふ。彼の弱点の数々を知るに及んで自分の彼に対する愛慕は深まる。

  ○

 純であれ。然し、リズム、メロデイを失ふな。美しかれ。しかし力あれ。リズム、メロデイなき「純」はあり得ぬ。真の「力」なき「美」はない。

  ○

 詩をよむとき、語句よりもその一つの詩の感興を、一つの詩の感興よりはそれを作つた人 それ自身の as a whole としての人柄を、まづ知るべく感得せよ。

 

テーマ:詩・ことば - ジャンル:小説・文学

  1. 2011/03/31(木) 23:57:00|
  2. ことば
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0
<<アニメ2nd ep.10 ここから | ホーム | 八木重吉 『重吉詩稿』より>>

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバック URL
http://umi88.blog54.fc2.com/tb.php/1222-df0013ad
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

プロフィール

藍田海

Author:藍田海
・ Twitter

最近の記事

カテゴリー

ブログ内検索

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。