海の底から

備忘録

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八木重吉 『秋の瞳』より

 自分用メモ1。 読書百遍意自ずから通ず。

(『日本の詩 八木重吉』 斎藤正二 編 ほるぷ出版 刊 より)
 
 
   序

 私は、友が無くては、耐えられぬのです。
しかし、私にはありません。この貧しい詩を、
これを読んでくださる方の胸へ捧げます。そ
して、私を、あなたの友にしてくだだい。



  「息を 殺せ」

息を ころせ
いきを ころせ
あかんぼが 空を みる
ああ 空を みる


  「哀しみの 火矢」

はつあきの よるを つらぬく
かなしみの 火矢こそするどく
わずかに 銀色にひらめいてつんざいてゆく
それにいくらのせようと あせったとて
この わたしのおもたいこころだもの
ああ どうして
そんな うれしいことが できるだろうか


  「フェアリの 国」

夕ぐれ
夏のしげみを ゆくひとこそ
しずかなる しげみの
はるかなる奥に フェアリの 国をかんずる


  「おおぞらの こころ」

わたしよ わたしよ
白鳥となり
らんらんと 透きとおって
おおぞらを かけり
おおぞらの うるわしい こころにながれよう


  「うつくしいもの」

わたしみずからのなかでもいい
わたしの外の せかいでもいい
どこにか「ほんとうに 美しいもの」は ないのか
それが 敵であっても かまわない
及びがたくても よい
ただ 在るということが 分りさえすれば
ああ ひさしくも これを追うに つかれたこころ


  「鉛と ちょうちょ」

鉛のなかを
ちょうちょが とんでゆく


  「花になりたい」

えんぜるになりたい
花になりたい


  「無造作な 雲」

無造作な くも
あのくものあたりへ 死にたい


  「大和行」

大和(やまと)の国の水は こころのようにながれ
はるばると 紀伊とのさかいの山山のつらなり
ああ 黄金(きん)のほそいいとにひかって
秋のこころが ふりそそぎます

さとうきびの一片をかじる
きたない子が 築地(ついじ)からひょっくりとびだすのもうつくしい
このちさく赤い花も うれしく
しんみりと むねへしみてゆきます
きょうはからりと 天気もいいんだし
わけもなく わたしは童話の世界をゆく
日はうららうららと わずかに 白い雲がわき
みかん畑には 少年の日の夢が ねむる

皇陵(こうりょう)や また みささぎのうえの しずかな雲や
追憶は はてしなく うつくしくうまれ
志幾(しき)の宮の 舞殿(まいでん)にゆかをならして そでをふる
白衣(びゃくえ)の神女(みこ)は くちびるが 紅い


  「咲く心」

うれしきは
こころ咲きいずる日なり
秋 山にむかいて うれいあれば
わがこころ 花と咲くなり


  「壷のような日」

壷のような日 こんな日
宇宙の こころは
彫刻(きざ)みたい! という 衝動にもだえたであろう
こんな 日
「かすかにほそい声」の主(ぬし)は
光を 暗(やみ)を そして また
きざみぬしみずからに似た こころを
しずかに つよく きざんだにちがいあるまい
きょうは また なんという
壷のような 日なんだろう


  「つかれたる 心」

あかき 霜月の葉を
窓よりみる日 旅を おもう
かくのごときは じつに心おごれるに似たれど
まことは
こころあまりにも つかれたるゆえなり


  「かなしみ」

このかなしみを
ひとつに 統(す)ぶる 力はないか


  「美しい 夢」

やぶれたこの 窓から
ゆうぐれ 街なみいろづいた 木をみたよる
ひさしぶりに 美しい夢をみた


  「心 よ」

ほのかにも いろづいてゆく こころ
われながら あいらしいこころよ
ながれ ゆくものよ
さあ それならば ゆくがいい
「役立たぬもの」にあくがれて はてしなく
まぼろしを 追うて かぎりなく
こころときめいて かけりゆけよ


  「死と珠」

死と 珠と
また おもうべき 今日が きた


  「ひびくたましい」

ことさら
かつぜんとして 秋がゆうぐれをひろげるころ
たましいは 街をひたはしりにはしりぬいて
西へ 西へと うちひびいてゆく


  「空を指す梢」

そらを 指す
木は かなし

そが ほそき
こずえの 傷(いた)さ


  「甕」

甕(かめ)を いつくしみたい
この日 ああ
甕よ こころのしずけさにうかぶ その甕

なんにもない
おまえの うつろよ

甕よ わたしの むねは
「甕よ!」と おまえを よびながら
あやしくも ふるえる


  「心 よ」

こころよ
では いっておいで

しかし
また もどっておいでね

やっぱり
ここが いいのだに

こころよ
では 行っておいで


  「玉」

わたしは
玉に なろうかしら

わたしには
何(なん)にも 玉にすることはできまいゆえ


  「こころの 海づら」

照らされし こころの 海(うな)づら
しずみゆくは なにの 夕陽
しらみゆく ああ その 帆かげ
日は うすれゆけど
明けてゆく 白き ふなうた


  「貫ぬく 光」

はじめに ひかりがありました
ひかりは 哀しかったのです

ひかりは
ありと あらゆるものを
つらぬいて ながれました
あらゆるものに 息を あたえました
にんげんのこころも
ひかりのなかに うまれました
いつまでも いつまでも
かなしかれと 祝福(いわわ)れながら


  「秋の かなしみ」

わがこころ
そこの そこより
わらいたき
あきの かなしみ

あきくれば
かなしみの
みなも おかしく
かくも なやまし
みみと めと
はなと くち
いちめんに
くすぐる あきのかなしみ


  「泪」

泪(なみだ) 泪
ちららしい
なみだの 出あいがしらに

もの 寂(さ)びた
わらい が
ふっと なみだを さらっていったぞ


  「龍舌蘭」

りゅうぜつらんの
あおじろき はだえに 湧く
きわまりも あらぬ
みず色の 寂びの ひびき

かなしみの ほのおのごとく
さぶしさの ほのおのごとく
りゅうぜつらんの しずけさは
豁然(かつぜん)たる 大空を 仰ぎたちたり


  「静寂は 怒る」

静寂は 怒る
みよ 蒼穹(そうきゅう)の 怒(いきどお)りを


  「しずけさ」

ある日
もえさかる ほのおに みいでし
きわまりも あらぬ しずけさ

ある日
憎しみ もだえ
なげきと かなしみの おもわにみいでし
水の それのごとき 静けさ


  「夾竹桃」

おおぞらのもとに 死ぬる
はつ夏の こころ ああ ただひとり
きょうちくとうの くれないが
はつなつの こころに しみてゆく


  「おもいで」

おもいでは 琥珀(オパール)の
ましずかに きれいな ゆめ
さんらんとふる 嗟嘆(さたん)でさえ
金色(きん)の 葉の おごそかに
ああ こころうれしい 煉獄の かげ

人の子は たゆたいながら
うらぶれながら
もだゆる日 もだゆるに ついで
きわまりしらぬ 混沌(ケーオス)の しじまへ
郭寥(かくりょう)と 彫(え)られて 燃え
焰焰(えんえん)と たちのぼる したしい風景


  「哀しみの 海」

哀しみの
うなばら かけり

わが玉 われは
うみに なげたり
浪よ
わが玉 かえさじとや


  「雲」

くものある日
くもは かなしい

くものない日
そらは さびしい


  「或る日の こころ」

ある日の こころ
山となり

ある日の こころ
空となり

ある日の こころ
わたしと なりて さぶし


  「幼い日」

おさない日は
水が もの言う日

木が そだてば
そだつひびきが きこゆる日


  「何故に 色があるのか」

なぜに 色があるのだろうか
むかし 混沌は さぶし かった
虚無は 飢えてきたのだ

ある日 虚無の胸のかげの 一抹が
すうっと 蟲惑(アンブロージアル)の 翡翠(ひすい)に ながれた
やがて ねぐるしい ある夜の 盗汗(ねあせ)が
四月の雨にあらわれて 青(ブルー)に ながれた


  「おもたい かなしみ」

おもたい かなしみが さえわたるとき
さやかにも かなしみは ちから

みよ かなしみの つらぬくちから
かなしみは よろこびを
怒り なげきをも つらぬいて もえさかる

かなしみこそ
すみわたりたる すだまとも 生くるか


  「胡 蝶」

へんぽんと ひるがえり かけり
胡蝶は そらに まいのぼる
ゆくてさだめし ゆえならず
ゆくて かがやく ゆえならず
ただ ひたすらに かけりゆく
ああ ましろき 胡蝶
みずや みずや ああ かけりゆく
ゆくてもしらず とももあらず
ひとすじに ひとすじに
あくがれの ほそくふるう 銀糸(ぎんし)をあえぐ


  「おおぞらの 水」

おおぞらを 水 ながれたり
みずのこころに うかびしは
かじもなき 銀の 小舟 ああ
ながれゆく みずの さやけさ
うかびたる ふねのしずけさ


  「そらの はるけさ」

こころ
そらの はるけさを かけりゆけば
豁然(かつぜん)と ものありて 湧くにも 似たり
ああ こころは かきわけのぼる
しずけき くりすたらいんの 高原


  「霧が ふる」

霧が ふる
きりが ふる
あさが しずもる
きりがふる


  「空が 凝視ている」

空が 凝視(み)ている
ああ おおぞらが わたしを みつめている
おそろしく むねおどる かなしい 瞳
ひとみ! ひとみ!
ひろやかな ひとみ ふかぶかと
かぎりない ひとみのうなばら
ああ その つよさ
まさびしさ さやけさ


  「わが児」

わが児と
すなを もり
砂を くずし
浜に あそぶ
つかれたれど
かなしけれど
うれいなき はつあきのひるさがり


  「人を 殺さば」

ぐさり! と
やって みたし

人を ころさば
こころよからん


  「蝕(むしば)む 祈り」

うちけぶる
おもいでの 瓔珞(ようらく)
悔いか なげきか うれいか
おお きららしい
かなしみの すだま

ぴらる ぴらる
ゆうらめく むねの 妖玉
さなり さなり
死も なぐさまぬ
らんらんと むしばむ いのり


  「稲 妻」

くらい よる
ひとりで 稲妻をみた
そして いそいで ペンをとった
わたしのうちにも
いなずまに似た ひらめきがあるとおもったので
しかし だめでした
わたしは たまらなく
歯をくいしばって つっぷしてしまった


  「むなしさの 空」

むなしさの ふかいそらへ
ほがらかにうまれ 湧く 詩(ポエジー)のこころ
旋律は 水のように ながれ
あらゆるものがそこにおわる ああ しずけさ


  「こころの  船出」

しずか しずか 真珠の空
ああ ましろき こころのたび
うなそこを ひとりゆけば
こころのいろは かぎりなく
ただ こころのいろにながれたり
ああしろく ただしろく
はてしなく ふなでをする
わが身を おおう 真珠の そら


  「草に すわる」

わたしのまちがいだった
わたしの まちがいだった
こうして 草にすわれば それがわかる


  「虹」

この虹をみる わたしと ちさい妻
やすやすと この虹を讃(ほ)めうる
わたしら二人 きょうのさいわいのおおいさ


  「秋」

秋が くると いうのか
なにものとも しれぬけれど
すこしずつ そして わずかにいろづいてゆく
わたしのこころが
それよりも もっとひろいもののなかへ くずれてゆくのか


  「黎 明」

れいめいは さんざめいて ながれてゆく
やなぎのえだが さらさらりと なびくとき
あれほどおもたい わたしの こころでさえ
なんとはなしに さらさらとながされてゆく


  「不思議をおもう」

たちまち この雑草の 庭に ニンフが舞い
エンゼルの羽音がきわめてしずかにながれたとて
七宝荘厳(しっぽうしょうごん)の天の蓮華が咲きいでたとて
わたしのこころは おどろかない
倦(う)み つかれ さまよえる こころ
あえぎ もとめ もだえるこころ
ふしぎであろうとも うつくしく咲きいずるなら
ひたすらに わたしも 舞いたい


  「あおい 水のかげ」

たかい丘にのぼれば
内海(ないかい)の水のかげが あおい
わたしのこころは はてしなく くずおれ
かなしくて かなしくて たえられない


  「人 間」

巨人が 生まれたならば
人間を みいんな 植物にしてしまうにちがいない


  「皎皎とのぼってゆきたい」

それが ことによくすみわたった日であるならば
そして君のこころが あまりにもつよく
説きがたく 消しがたく かなしさにうずく日なら
君は この阪路をいつまでものぼりつめて
あの丘よりも もっともっとたかく
皎皎(こうこう)と のぼってゆきたいとは おもわないか


  「怒(いか)れる 相(すがた)」

空が 怒っている
木が 怒っている
みよ! 微笑(ほほえみ)が いかっているではないか
寂寥 憂愁 哄笑(こうしょう) 愛慾
ひとつとして 怒っておらぬものがあるか

ああ 風景よ いかれる すがたよ
なにを そんなに待ちくたびれているのか
大地から生れいずる者を待つのか
雲に乗ってくる人を ぎょう望して止まないのか


  「秋の日の こころ」

花が 咲いた
秋の日の
こころのなかに 花がさいた


  「白い 雲」

秋のいちじるしさは
空の 碧(みどり)を つんざいて 横にながれた白い雲だ
なにを かたっているのか
それは わからないが
りんりんと かなしい しずかな雲だ


  「沼 と 風」

おもたい
沼ですよ
しずかな
風ですよ


  「お も い」

かえるべきである ともおもわれる


  「秋 の 壁」

白き
秋の 壁に
かれ枝もて
えがけば

かれ枝より
しずかなる
ひびき ながるるなり


  「郷 愁」

このごろ
あまりには
ひとを 憎まず

すきとおりゆく
郷愁
ひえびえと ながる


  「ひとつの ながれ」

ひとつの
ながれ
あるごとし

いずくにか 空にかかりてか
る る と
ながるらしき


  「宇宙の 良心」

宇宙の良心――耶蘇(やそ)


  「空 と 光」

彫(きざ)まれたる
空よ
光よ


  「おもいなき 哀しさ」

はるの日の
わずかに わずかに霧(き)れるよくはれし野をあゆむ
ああ おもいなき かなしさよ


  「ゆくはるの 宵」

このよいは ゆくはるの よい
かなしげな はるのめがみは
くさぶえを やさしい唇(くち)へ
しっかと おさえ うなだれている


  「しずかなる ながれ」

せつに せつに
ねがえども きょう水を みえねば
なぐさまぬ こころおどりて
はるのそらに
しずかなる ながれを かんずる


  「春」

春は かるくたたずむ
さくらの みだれさく しずけさの あたりに
十四の少女の
ちさい おくれ毛の あたりに
秋よりはひくい はなやかな そら
ああ きょうにして 春の かなしさを あざやかにみる



八 木 重 吉 … 生涯を詩と信仰に捧げた人。

1898年(明治38年) 2月9日 出生
1922年 24歳  とみ(17歳)と結婚
1923年 25歳  5月26日 長女 桃子出生
1924年 26歳  12月29日 長男 陽二出生(翌年1月1日出生として届出)
1925年 27歳  処女詩集『秋の瞳』刊行
1927年(昭和2年) 10月26日 昇天 享年29歳
1928年 没後1年 第2詩集『貧しき信徒』刊行
 

テーマ: - ジャンル:小説・文学

  1. 2011/03/31(木) 23:45:00|
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