海の底から

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『君.に.届.け』SSその6 海辺にて 前編

 これは、椎.名.軽.穂 原作の漫画『君.に.届.け』の二.次.小.説です。
 原作者、出版社とは、一切関係ありません。

 原作のイメージを壊されたくない方、ネタバレをご覧になりたくない方は、ブラウザバックでお戻り下さい。
 
 
【 海 辺 に て ・ 前 編 】
 ~爽子、翔太 高校2年生・8月頃のお話~


 輝く太陽が、すべてを鮮やかに照らす夏、爽子と翔太は、海へやって来た。
 果てしなく広がる 青い海は、穏やかに凪いで、二人を迎えた。

 遠くに水平線が見えると、次第に足早になる。
 しまいにはかけっこをするような勢いで、海岸で辿り着いた。

「俺、いちばーん!」 翔太が明るい口調で言った。

「私、にばーん!」 爽子が、晴れやかに答えた。

「ワン、ワンワン!」 マルが、負けじと吠え立てた。

 二人は、肩で息をしながら、顔を見合わせ、笑い合う。
 大きく深呼吸をすると、潮の香りがした。


 爽子にとって、今年の夏は、初めてのことばかりだった。
 初めて出来た友達と、初めて好きになった人と共に過ごした、かけがえのない毎日だった。

 みんなで一緒に海へ行った日のことは、忘れられない。
 今度は二人で、できれば翔太の愛犬・マルちゃんも連れて行きたいという爽子の願いに、翔太が快く応じて、ここへ来たのだった。


 白いリネンのワンピースを着て、長い髪を耳の後ろでひとつに束ねた爽子は、いつもよりはつらつとして見える。
 海風が吹くと、スカートのすそが、ひざのあたりで軽やかにひるがえる。
 爽子はすばやく麦わら帽子を押さえ、清々しい空気を、胸いっぱい吸い込んだ。

 いたずらな風は、翔太の綿の上着を、ヨットの帆のようにふくらませた。
 翔太は、髪をくしゃくしゃにあおられながら、大きめのトートバッグを肩にかけ直した。

 これは爽子のバッグで、自分で持つと言い張る謙虚な彼女から、半ば強引に奪い取ったものだ。
 中にはおいしいお弁当が、ぎっしり詰まっている。
 想像しただけで お腹が鳴る。

 もう片方の肩には、マルのお出掛けセットを入れた バッグを持っている。
 中にはエチケット袋やタオル、おやつに水筒、水受け皿が入っている。

 翔太は 直射日光を避け、防風林の木陰に バッグを置いた。
 二人は靴と靴下を脱ぐと、さっそく海岸へ向かった。


 北国の夏は、短い。
 お盆を過ぎると、水温は下がり、海水浴客はまばらだった。

 初めて海を見たマルは、その大きさに興奮し、リードを持つ翔太を 引きずるようにして走った。
 寄せては返す 波の動きに合わせ、軽快なフットワークで 海水をかわしている。

 爽子も一緒になって、波を追いかけた。
 時折、大きな波が来ると、急いでスカートのすそをたくし上げた。
 水が、ほっそりした細い足首に渦を巻き、見る間にひざまで浸した。

「もうちょっとで、スカートが濡れるところだった」

 無防備な爽子の笑顔を、翔太は眩しそうに見つめた。
 二人と一匹は、行ったり来たりする波と、心ゆくまでたわむれた。


 踊るように走り、退く波を追いかける。
 とたんに力を取り戻した波が、牙を向いて襲いかかる。

 迫る波をジャンプしてよけると、派手な水しぶきが上がった。
 光をはじいてきらめくしぶきを浴びながら、二人は笑いが止まらなかった。

 見渡す限りの広い空と海が、二人の心を開放的にした。
 夏の太陽が、やんちゃにはしゃぎ回る二人を、あたかかい目で見下ろしていた。


 マルが砂に鼻を押し当て、匂いをかいでいる。
 爽子が近づいてみると、空き缶が埋っているのを見つけた。
 よくよく観察すると、波打ち際にはペットボトルや発泡スチロールなど、多くのゴミが落ちていた。

「爽子もマルも、踏んづけて怪我とかしてないか?」
「うん、平気。 マルちゃんも、大丈夫」
「マナーの悪い奴が いるんだよな」
「このままには しておけないね。 ちょっと待ってて」

 爽子は、バッグの置いてある林まで引き返すと、すぐ戻ってきた。
 手には、ビニール袋が数枚、握られている。

「全部は無理だけど、少し拾っていこう」
「うん。 そうだね」

 二人と一匹は、ゆっくり歩きながら、目に付くゴミを拾い集めた。

 マルは賢い犬だった。
 何かを渡せばほめられ、あわよくば おやつがもらえるということを、一度で理解した。

 流れ着いた棒切れでも何でも、次々に拾っては、翔太に渡す。
 翔太は苦笑しながら、マルを大げさにほめ、ポケットからおやつを出して与えた。

 浜辺では、波が白く泡立ち、さわさわと音をたてて消えてゆく。
 翔太が、砂を被った袋を拾い上げた。

「花火セットの残骸だ」
「燃えるゴミだね。 こっちの袋に…どうしたの?」

 翔太はおもむろに、袋の中の厚紙を取り出した。
 正方形にちぎり取り、丁寧に折り目をつけてゆく。

「でーきた!」
「あっ、紙ひこうき!」
「見ててよ。 せーの、飛んでけー!」

 しかし、紙ひこうきは急カーブを描いて、ストンと落ちた。

「あれ? おっかしいなあ。 もーいっかい」

 翼の角度を微調整し、手に構えて、風を待つ。
 すると、沖から強い風が吹いてきた。

「今度こそ! いけえっ!!」

 翔太の手を離れた紙ひこうきは、風に乗って、ぐんぐん飛距離を伸ばす。
 爽子は小躍りせんばかりに喜んで、拍手喝さいした。

 突然、マルが走り出した。
 飼い主がリードを離した隙に、まっしぐらに駆けていき、紙ひこうきを空中キャッチ!

「あ」
「あ」
「ワン!」

 呆気にとられる爽子と翔太をよそに、マルは意気揚々と帰ってきた。
 ぐしゃぐしゃになった紙ひこうきを口から放し、ほめろといわんばかりに尻尾を振る。
 二人はこらえきれず、吹き出した。

「お前、すげーな。 今度、ディスクドッグに挑戦してみるか」
「ディスクドッグって、円盤みたいなのを投げて、取ってくる競技のこと?」
「そう。 マルなら、軽く50メートルは行くんじゃね?」
「うんうん。 あのダッシュ、すごかったもんね」

 爽子と翔太は、涙を流して笑いながら、マルの才能を誉めまくった。
 マルも得意満面で、ふわふわの毛をなびかせながら、雄々しく吠えた。


 爽子が用意したゴミ袋は、あっという間に満杯になった。

「いっぱい拾えたね。 ありがとう風早くん。 マルちゃんも、ありがとう」

 爽子がおずおずと、マルの頭をなでた。

「わー、マルちゃんが、触らせてくれたよ」
「はは、よかったね。 …あ、あのさ、手、出して」
「こう?」
「はい、これ」

 翔太は、爽子の掌に何かを置いた。
 それは、小さな貝殻だった。 手の中で、桜色に光っている。

「さっき見つけたんだ。 あげる」
「わあ、きれい。 …ありがとう」

 爽子は、嬉しさをにじませて ほほ笑んだ。
 翔太も 照れくさそうにほほ笑んで、、爽子の笑顔に見入っていた。


 ~ 【海辺にて 後編】 へつづく ~
 

テーマ:君に届け - ジャンル:アニメ・コミック

  1. 2011/08/31(水) 20:55:00|
  2. 君.に.届.けSS
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