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博士の愛した数式

 この本↓を避ける人の大部分は、数学が苦手なことと思われます。 私もそうでした。

 『博士の愛した数式』小川洋子 著 新潮社

 中学入学と共に、算数が数学に変わった時の、あの絶望感たるや……。
 そして、二次方程式(だっけ?)で完全につまづき、高校では赤点続き。もうどうにでもなれ、でした。
 その私が、“友愛数”という存在さえ知らずにいたことを棚に上げ、ロマンティックな語感の響きにうっとりし、“完全数”の美しさに感動し、”素数”への愛を謳う博士に尊敬の念を抱きました。
 
 
 昔 数学で0点取った阿呆でも 面白く読めたのは、博士が数字を敬ったように、作家が言葉を大切に扱っているからでしょう。
 例えば、タイトルの『博士愛した数式』。
 …主語を「博士」じゃなく「数式」にすることで、永遠に変わらない真実である数式への畏怖と、数学への深い愛情を抱く博士の慎みが感じられます。
 それに、もうひとつ。
 「愛した」…つまり、過去形。
 この博士が亡くなるんだろうと読者に予想させておいて、さあどうぞと読ませる作者の用意周到さに素直に脱帽し、こちらも居ずまいを正して読みました。
 死に様を語ることで、生き様を表すのは、作家の経験則・度量が問われるやり方です。 うまくいけば大きな感動を生む方法ではありますが、ただのお涙頂戴ものになりかねません。
 が、この小説では大成功でした。 実に惜しい人を亡くしました。 博士の数学談義をいつまでも聞いていたかったです。
 博士と友達になったルートくんも、きっとそう思ったに違いありません。
 
 博士は、ルートくん(10歳)と出会った瞬間から仲良くなりました。
 博士の記憶が保てなくても、ルートくんの中では友情が育まれ、博士もまた、ルートくんを常に慈しみ、二人の絆は生涯変わりませんでした。
 それを見守る「私(博士の家の家政婦で、ルートくんの母親)」が、どんなに満ち足りていたか、よく分かります。 私も彼女と同じ気持ちになりましたから。 要するに、とても嬉しい、ってこと。

 人と人がつき合うには、過去の積み重ねが大きな意味を成します。
 ところが博士は、80分しか記憶が持ちません。
 それでも、友情は成立するんですね。 初めて出会った時から、ずっと。
 養護されるべき障害を持つ老人が、慈母のごとき眼差しで か弱き少年を擁護するんです。
 博士が亡くなっても ルートくんたちの心には 博士が生き生きと宿っています。
 その証拠に、彼は数学の先生になるのです。
 ルート先生ならきっと、数学の深遠な美しさが伝わる、面白い授業をして、生徒の誰ひとりとして 数学嫌いにさせないでしょうね。

 子どもには幸せな子ども時代がなくては絶対に嫌なのと同じくらい、老人が幸せな老後を送れなくては嫌だと思ってる私には、理想的な二人でした。
 私も、隠居生活なんかしないで、近所の子ども相手に役立てるよう、例えば花壇を作って道行く人を喜ばせるくらいのことはしたいなあと思います。


 この本を読むきっかけは、『生きるとは、自分の物語を作ること』(小川洋子 河合隼雄 共著 新潮文庫)でした。
 臨床心理学者の河合隼雄さんと、作家の小川洋子さんの対談を元にした本です。
 河合さんを通じて、小川さんを知りました。
 今日は、河合さんの命日です。 静かに、静かに、河合さんのことを思います。 
 

テーマ:図書館で借りた本 - ジャンル:本・雑誌

  1. 2012/07/19(木) 23:04:47|
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