海の底から

備忘録

ハイジ

『ハイジ』 J・シュピーリ作  矢川澄子 訳 パウル・ハイ 画 福音館書店

 TVでハイジが再放送されるたび、原作を借りて読むのが通例となっています。
 そのたび、こんな話だったっけ?と驚いてしまいます。 なぜなら、アニメのイメージが強すぎるから。
 先に見たのはアニメ版ゆえ、致し方ありませんが、そのせいで原作の良さを見逃していたのは確か。
 アニメとの相違を比べながら、やっぱり名作は名作だと、感動を新たにしています。
 
 
 ハイジは1歳の頃、両親を亡くし、おばのデーテの元に身を寄せます。しかしデーテは外で働くため、ハイジを知人のおばあさんに預けっぱなし。おばあさんの耳が遠いので、ハイジは外で遊ばせてもらえませんでした。

 ハイジが5歳になった頃、デーテは、もっといい奉公先を見つけ、フランクフルトへ行くことになったので、今度は親戚のおじいさんの家に引き取られます。
 ハイジがあんなに嬉しそうに山を駆け回るのは、今までずっと窮屈な暮らしをさせられていたからなんですね。
 部屋の中に閉じこもりっきりだった子どもが、広いアルプスの山へ来たら、どんなに心晴れ晴れと、せいせいとしたことでしょう。

 おじいさんともすぐ意気投合して、初めての山小屋でぐっすりと眠ります。
 ここで大事なのが、ベッドと椅子。
 ハイジはおじいさんと二人で、干し草のベッドを作ります。その後、おじいさんがハイジの椅子を作ってくれます。
 これらの行動で、ここがハイジの居場所なのだと、明示するんです。そうなって初めてハイジが、子どもになれるんです。

 デーテが、ハイジは5つにしては利口で、お守りなどいらないと言っていました。
 でも、そんなわけないでしょう。まだたった5つですよ。ぐずったり駄々をこねたりして、大人の手をやかせるに決まってる!
 そうしないのは、しても無駄だと悟っていたから…だとしたら、あまりに不憫です。
 だからシュピーリは、世界でもっとも美しい場所へ、ハイジを連れて来たんだと思うのです。
 そして、無垢な魂と、不幸な老人が出会い、物語は癒しと許しを与えるハッピーエンドまでまい進します。

 本作は、第一部「一人前になるまで」と、第二部「勉強が役に立つとき」の2章から成り立っています。
 多分、ハイジがフランクフルトから帰って、おじいさんが村人と和解する第一部で、お話は終わりだったのでしょう。
 その後、反響が大きかったので、続編を書いたのでしょう。第一部で終わっては、クララが救われませんからね。

 昔は、教会に行かないおじいさんがどんなに偏屈だったか、想像出来ませんでした。
 だって、今まで散々おじいさんの悪口を言ってた村人が、おじいさんがハイジと共に教会に来るなり、善人扱いするんですもの。それはもう手の平返したように。
 いかに深く 教会が生活に根付いていたか、ですよね。

 本作を貫くシュピーリの世界観は、キリスト教に拠っています。キリスト教は、ヨーロッパ文化の基層を形成したものとして、日本人が理解しなければならない最初の関門です。
 ここを軽んじると、ハイジの信仰心に近づけません。
 私は昔、「神様を信じれば、みんなうまくいく――だって。そんなわけあるか」と軽く考えて、シュピーリの魂の高貴さが見えませんでした。
 私は無宗教ですが、神道、仏教の影響を、少なからず受けています。ですから、人智を超える、大いなる神の存在を信じたいし、シュピーリの信念を敬いたいと思います。

 登場人物は脇役に至るまで、きめ細やかに描写されていて、読むのが楽しい。
 特に、フランクフルトでハイジを救ってくれる、クラッセン医師のやさしさが、胸にしみました。
 私がどうしても主人公びいきなので、ハイジにやさしい人は、無条件で好きになってしまいますw
 逆にロッテンマイヤー女史は苦手。何度読み直しても、相手の話を聞かず、自分の意見を押し通す 傲慢な印象は 変わりませんでした。
 ペーターのおばあさんも、ハイジにとっては大事な人です。ハイジのおしゃべりを、なんでもニコニコ顔で聞いてくれます。なぜって、おばあさんはハイジが大好きだから。
 口下手なペーターは、大抵ハイジに根負けして、たじたじとなってしまいます。
 おじいさんは意外と口も達者で、経験豊富だから、ハイジに何でも教えてくれます。
 そのおじいさんが、神に許しを請い願うシーンが、感動的でした。そう促したハイジの語りも、すっと心に染み込みました。

 読後は、おいしいアルプスの空気を胸いっぱい吸い込んだような、すがすがしい気持ちになりました。
 どんなに古くなっても、ことばの力は失われません。名作たる所以です。
 

テーマ:図書館で借りた本 - ジャンル:本・雑誌

  1. 2012/11/07(水) 21:58:59|
  2. 本&漫画
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