海の底から

備忘録

あのころはフリードリヒがいた

あのころはフリードリヒがいた (岩波少年文庫 (520))あのころはフリードリヒがいた (岩波少年文庫 (520))
(2000/06/16)
ハンス・ペーター・リヒター

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 「これほど最後まで読み通すのが辛い児童文学はあまりないであろう。しかし、われわれは読まねばならないし、読んだことは忘れてはならないのだ」
 (『子どもの宇宙』 河合隼雄 著 岩波新書 より)

 と河合さんに念押しされていたこの本、やっと読みました。
 題名ともくじを見れば、作者が何を伝えようとしているのか、およそ見当がつきます。
 もくじには、年数が書かれています。
 「生まれたころ(1925年)」から、「終末(1942年)」まで、約17年。そして作者はドイツ人です。
 これでどんな内容か、一目瞭然。
 それで読むのを渋っていました。本当に辛かったです。
 
 
【あらすじ】

 「ぼく」が生まれた一週間後、同じアパートに住むシュナイダーさんの家にも、男の子が生まれた。名はフリードリヒ。
 同じ年の子どもを通じて、家族ぐるみのつき合いが始まる。
 だが彼らは、ユダヤ人だった。
 やがてヒトラーが台頭し、ユダヤ人への迫害が強まっていく。
 フリードリヒが学校を辞めさせられるのを、ぼくは止めることができない。
 フリードリヒの家が、暴徒化した民衆に破壊されても、助けられない。
 彼の母は家が破壊されたショックで死に、父はラビ(神父)をかくまった罪で捕まる。
 ある日、隠れ家で暮らすフリードリヒが訪ねてきた。父母の写真がほしいという。
 だがその時、空襲警報が鳴る。
 ぼくたち一家は防空壕に逃れるが、フリードリヒは入れてもらえなかった。
 翌日、フリードリヒがアパートの陰にうずくまって死んでいるのをぼくたちは知った。


【感想】

 作者は、ユダヤの人々への鎮魂と、ドイツ人の贖罪として、この作品を書いたのでしょう。
 書き残さねばならないという使命感もあったでしょう。
 それだけに、ずっしりと重い枷をはめられた気分です。

 こういうのを読むと、どうしても、人間への不信感が沸いて出ます。
 なんと愚かで、醜く、汚い生き物なのか。
 人間なんか滅亡してしまえばいいんだ!…とわめき立てるのは簡単ですが、そうやって問題から目をそらしても、何も解決しません。

 フリードリヒとぼくたちの日常を、感情的にならず、丹念に追った文章が、ひとつひとつのエピソードを現実のものとして突きつけます。
 ユダヤ人を迫害するよう命じたのは、ヒトラーです。
 しかし、国民の大多数が賛成しなかったら、彼が権力者になることはなかったのです。

 ナチスに良い仕事をくれると言われたら、飢えた家族を無視してでも拒めるか?
 自分が暴徒化した民衆の中にいたら、果たして彼らを止められるか?
 「ぼく」も民衆に混じって、襲撃を助長していました。破壊衝動のままに金槌をふり回し、窓を叩き壊しました。

 人間は、残酷な生き物です。自分が生き残るために、他人を差別し、殺せるのです。
 人が攻撃性と残虐性を持っていることを知る人々は、教育や宗教で人間を抑制してきました。人類の知恵なのでしょう。愚行は今もくり返されていますが。

 フリードリヒの暗い人生にも、光が差す時があります。
 ぼくたち一家との交流や、「ベンチ」のエピソードに、わずかながら希望が感じられました。
 

テーマ:図書館で借りた本 - ジャンル:本・雑誌

  1. 2012/12/30(日) 18:55:33|
  2. 本&漫画
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