海の底から

備忘録

『君.に.届.け』SSその8 おうちでクリスマス 前編

 これは、椎.名.軽.穂 原作の漫画『君.に.届.け』の二.次.小.説です。
 原作者、出版社とは、一切関係ありません。

 原作のイメージを壊されたくない方、ネタバレをご覧になりたくない方は、ブラウザバックでお戻り下さい。
(episode.75の補完話です。コミックス派の方は、ネタバレ回避のため、お戻り下さい)
 
 
【 お う ち で ク リ ス マ ス ・ 前 編 】

 ~爽子、翔太 高校2年生・12月25日のお話~


 ------ 1. 千 鶴 と 龍 ------

 きっかけは、爽子の一言だった。
「バラはね、色によっていろんな花言葉があるんだよ」
 吉田千鶴は、あやねと共に、爽子の部屋でおしゃべりを楽しんでいた。
 話題は昨夜クラスで行われた、クリスマスパーティー。
「へー、どれどれ…赤は “愛情” “情熱” ね。 なんか ありきたり」
 あやねが彼氏から贈られたXマスプレゼントは、まっ赤なバラの花束。
 早速 スマホで検索し、結果に肩をすくめていたが、その瞳はひそやかな喜びに満ちていた。
「やのちん、ピンクは? ピンク」
 千鶴が知りたがったのは、ピンクのバラ。
 テーブルには、幼なじみの真田 龍から贈られた、ピンクのバラのプリザーブドフラワーが置かれている。
「ピンクは…ぶっ、“上品” “しとやか” だって!」
「あ、あやねちゃんってば… 明るくて 元気なのが、ちづちゃんのいい所だよ」
「やのちん、笑いすぎ! どーせ そんなガラじゃないよーだ!」
 大笑いするあやねと、それをとりなす爽子を尻目に、千鶴は憤慨した。
「あ、こんなのもある。 “わが心 君のみが知る” へーロマンチック~」
「わーちづちゃんと真田くんに ぴったり~」
 ――わが心 君のみが知る――
 楽しげにはやし立てる爽子たちとは対照的に、千鶴は合点がいかなかった。
 龍の気持ち、何も知らなかったから。
 千鶴が龍に告白されたのは、1ヵ月以上前。
 生まれた時から一緒にいた、気の合う幼なじみ…そう思っていたのに。
 龍の本心を知って以来、千鶴はどう接していいか分からずにいる。
 『千鶴みたいじゃない?』
 昨夜の龍の言葉が耳元で蘇る。
 ピンクのバラに千鶴の面影を重ねて、龍はプレゼントを選んだという。
 千鶴は、小箱に鎮座したピンクのバラに触れながら、 龍の想いを受け止め切れない自分に苛立つのだった。
 ピンポーン。 玄関のチャイムが2階まで聞こえた。
「あ、来た! 風早くんだ!」
「ケントかも。 ちょっと様子見てくる」
「じゃあ、あたし飲み物片付けとくわ」
 爽子とあやねは、それぞれの彼氏を迎えに、うきうきと部屋を出た。
 これから黒沼家のクリスマスパーティーが行われる。
 友人の彼氏も呼んでいいと言う 爽子の母の厚意に甘え、なぜか龍も呼ぶことになった。
 彼氏じゃなくて、ただの幼なじみだけど、まあいいか…千鶴は箱の蓋を閉めた。

「あ」
「あ」
 千鶴が振り返った時には、すでに龍が、扉の前に立っていた。
 夕食に呼ばれた龍が やって来たのだ。
 コップやお皿を片付けるのを優先して、千鶴は肝心なものをしまい忘れてしまった。
「…………持ってきてたのか………… そして見せたんだな…」
「う… うん……」
「……やめてくれよ いろんなイミで……」
「す すいません…」
 見せびらかすつもりはなかったが、結果的にそうなってしまった。
 恋に夢中な友達が、うらやましかったのかもしれない。
 千鶴は、いつも考える前に行動してしまう己の性格を悔やんだ。
「う―――ん」
(怒った!?)
「…… 俺も 結構 恥ずかしいんだけど」
 龍はそっぽを向いて、ぼそっとつぶやいた。
 千鶴は、龍の予想外のリアクションに、どう対処していいか分からなかった。
「…………怒んないの?」
「なにが?」
「爽とやのちんに、見せたこと」
「怒ったところで、記憶が消せるわけじゃねーし」
「そりゃそーだけど! あたしがうっかりしゃべると、他の子は怒るか呆れるよ」
「裏表ないのが、千鶴のいい所だろ。 それに、ウソつかれるよりずっといい」
「ふうん …龍は、あたしのこと 分かってるんだね」
「そう?」
「あたしは、全然 龍のこと分かんないのにさ。 …なんか、悔しい」
 龍が小さく笑った。
「ほらー、そういうのが! 腹立つんだよ! もう!」
 龍は たまらず 声を出して笑った。
 顔が熱いのは、怒鳴ったからか、羞恥心なのか、千鶴にも分からなかった。
 龍はあたしの気持ち、お見通しなのに、あたしは龍の気持ち、ずっと知らなかった。
 だから教えてやらない…と、千鶴はひそかに誓った。
 頬を染める横顔に ときめいたことも、今のこんな気持ちも…。


 ------ 2. あ や ね と ケ ン ト ------

 矢野あやねは、人待ち顔で舞い降りる雪を眺めていた。
 家々の窓からさす 暖かな光が 四つ角に立つ彼女を照らす。
「あやねちゃん!」
 長身の人影が、あやねの元へ走り寄った。あやねと同じクラスの三浦健人だ。
「ケント、迷わず来れた?」
「うん、全然へーき! 迎えに来てくれて ありがと! …ずっとここで待ってたの?」
「ううん、ちょっとだけよ」
 ケントが視線を落とすと、あやねのまわりに積もった雪が、踏み固められていた。
 寒さをしのぐため、ここで「ちょっと」の間、足踏みしていたのだろう。ケントは ほほ笑んだ。
「寒かったでしょ?」
 ケントは、あやねの柔らかい髪に積もった雪を 丁重に払い落とした。
「ごめん、待たせて。 あっ、そうだ!」
「なに?」
「誘ってくれて ありがとう。 会えて 嬉しいよ」
「何よ、あらたまって。 昨日も会ったじゃん。 いいから行こ。 爽子ん家、すぐそこだから」
 ケントの人懐っこい笑顔に戸惑いながら、あやねは先に立って歩き出した。

 あやねは昨日 、ケントに告白された。
 今日は、あやねの友人、爽子(愛称 貞子)宅のホームパーティーに招待され、二人で向かうところだ。
「いやーそれにしても、貞子ちゃん家って初めて! どんなだろ~?
 友達の彼氏も連れて来ていいなんて、貞子ちゃんのお母さん、いい人だよな!
 パーティーグッズとかいろいろ持ってきたんだ。
 盛り上げ役なら任しといて! うーんと楽しもうね!」
「…うん」
「風早たちも来るんでしょ? 昨日風早と電話してさ、あやねちゃんとつき合うことになったって、言っちゃった~」
「えっ、もうしゃべったの!?」
 あやねはケントを振り仰ぎ、すぐ下を向いた。
「うん! …黙っていられなくて ……いけなかった?」
 うつむく彼女の横顔を、並んで歩きながら窺うのは、長身のケントには難しい。
 ケントが立ち止まると、あやねも足を止めた。
「オレ、はしゃぎすぎ? ウザい? だったらはっきり言って。 どんなことでもするから!」
「ううん、違う。 あたしも、自慢したかったから…」
「え……」
「みんなの前で、 “彼氏です” って紹介できるのが うれし…わっ」
 ケントは たまらず、あやねを ぎゅっと 抱きしめた。
「そっかー… 照れてたのか …可愛い」
「…バカ 何言ってんの」
 あやねが初めて巡り会えた、欲しいものを惜しみなく与えてくれる人。
 閉じ込められた腕の中で、あやねは、心からくつろいでいる自分を発見した。
「…このままじゃ、風邪引いちゃう」
「…うん」
 そうは言ったものの、あやねは ケントから離れようとしない。
 それはケントも同じだった。やがて ゆっくり 腕をゆるめて、彼女を解放した。
「頭、雪積もってる」
「え、そう?」
「もう、こんなになるまで…バカなんだから」
 ケントがかがむと、今度はあやねが雪を払った。
 そっけない言葉と、かいがいしい仕草。
 あやねの相反するそぶりが嬉しくて、ケントは照れ笑いを隠せなかった。
 あやねのスマホにメールが届いた。
「風早たち、家に着いたって。 あたしらも行こ」
「うん!」
 二人は、凍てつく銀世界の中、手をつなぎ、寄り添って歩いた。
 あやねが つないだ手に一瞬力を込めると、ケントは強く握り返した。
 掌のぬくもりを感じながら、寒いのも悪くないな、と あやねは思った。


 ~ 【おうちでクリスマス 後編】 へつづく ~
 

テーマ:君に届け - ジャンル:アニメ・コミック

  1. 2013/01/05(土) 22:59:37|
  2. 君.に.届.けSS
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0
<<『君.に.届.け』SSその8 おうちでクリスマス 後編 | ホーム | 2013>>

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバック URL
http://umi88.blog54.fc2.com/tb.php/1475-0d8492a7
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

プロフィール

藍田海

Author:藍田海
・ Twitter

最近の記事

カテゴリー

ブログ内検索