海の底から

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『君.に.届.け』SSその8 おうちでクリスマス 後編

 これは、椎.名.軽.穂 原作の漫画『君.に.届.け』の二.次.小.説です。
 原作者、出版社とは、一切関係ありません。

 原作のイメージを壊されたくない方、ネタバレをご覧になりたくない方は、ブラウザバックでお戻り下さい。
(episode.75の補完話です。コミックス派の方は、ネタバレ回避のため、お戻り下さい)
 
 
~先にこちらをどうぞ → 【おうちでクリスマス 前編】


【 お う ち で ク リ ス マ ス ・ 後 編 】

 ~爽子、翔太 高校2年生・12月25日のお話~


 ------ 3. 陽 子 と 喜 多 夫 ------

 黒沼喜多夫は、愛用のニット帽を目深にかぶり、雪道を急いでいた。
 我が家では、愛する妻と 娘が、クリスマスパーティーの準備をして待っている。
 期待に胸膨らませ、玄関のドアノブに手をかける…と。
 パパパパパーン!!
「おかえりなさーい!!!!!!!」
 盛大なクラッカーと共に、大勢の若者に出迎えられた。
「 どっ !? だっ !?」
 どこの誰かも分からない者たちを前に、喜多夫はうろたえた。
「おかえりなさーい 早く早く お父さん! もう準備してあるからー!!」
 妻の陽子に声をかけられ、喜多夫は我に返った。
「クラスメイト 一同でーす!! これ あたしの幼なじみなんだー」
 と紹介するのは、吉田千鶴。娘の友達だ。
「ちっス」
(でか!!)
 身長180cm近い青年が、サンタの帽子に三つ編みの被り物をしている。身長160cmの喜多夫はひるんだ。
 娘のもう一人の友達、矢野あやねの隣にいた青年も 挨拶した。
「あやねちゃんの彼氏でーす! チース!☆」
(チャラ!! そしてでか!!)
 トナカイの角付き帽子を被った青年が、フレンドリーにウィンクした。喜多夫は開いた口がふさがらなかった。
「お…お邪魔してます!」
 ことさら丁寧に挨拶したのは、娘の彼氏、風早翔太。喜多夫は身構えた。
「昨日…遅くなってすみません!」
「…… まじめに つきあってると 言えるのかい!」
「はい!」
 落ち着き払った態度に、やましさは微塵もなかった。喜多夫は簡潔に答えた。
「…じゃあ いい!」
「あ お父さん 荷物持つよ」
 最愛の娘、爽子が笑顔で駆け寄って来た。喜多夫は相好を崩した…が。
「あれっ 爽子… お おまえ 大きくなったなあ…」
「そ…… そうかな?? 今年ちょっと伸びたけど…」
 渡したおみやげと共に、爽子は台所へ消えた。ショックを隠せない喜多夫に、さらに追い討ちがかかる。
 千鶴が喜多夫のニット帽を指差し、叫んだ。
「あっ その帽子!! 風早にやるはずだった帽――」
「わ―――――――!!!」
 あやねが慌てて口を塞いだものの、手遅れだった。
 二人はお茶を濁すように、そそくさと退散した。喜多夫は帽子を脱ぎ、まじまじと見つめた。
(爽子が去年用意した クリスマスプレゼント…風早くんのだったのか)
 喜多夫は知っている。翔太も同じニット帽を持っていることを。
 本当のことを打ち明けられないまま、こっそり同じものを編んだであろう爽子を思うと、いたたまれなかった。

「お父さーん! 着替えたら 茶の間 来てね―!!」
「お おう。  …なあ、母さん」
 喜多夫は廊下で陽子に話しかけた。
「風早くんは、帽子、被ってたかい?」
「さあ、どうだったかしらね。 でも それが どうしたの?」
「実は…」
 事情を説明すると、陽子は笑い出した。
「やあねえ。 あの子ったら、そうならそうと言えばいいのに」
 それを言わないのが、いかにも爽子らしい。喜多夫はみぞおちがしくしく痛んだ。
「母さん、俺が知ってること、爽子には…内緒な」
「いいけど。 隠すことないんじゃない? 家族なんだから」
「いや、爽子の思いやりを無にしたくない」
「ふふ、わかったわ」
 リビングから聞こえる笑い声が、喜多夫のうつろな胸にこだました。
「さあさあ、今夜はご馳走よ。 爽子と作ったの」
「ほう、楽しみだな」
 喜多夫が、顔で笑って心で泣いている…陽子は、実の親より長い時を一緒に暮らしてきた夫の心を 敏感に感じとった。
「お父さん」
「ん?」
「親の目が届かないところで、子どもは成長するのね」
「…そうだな。 親は 遠くから見守るしかないんだ」
「お父さんったら心配性ね。 爽子なら大丈夫よ。 あたしたちの子だもの」
「そうか。 ……そうだな」
 陽子はやさしく励ますように言った。喜多夫は気を取り直して、部屋へ向かった。


 ------ 4. 爽 子 と 翔 太 ------

 夜のとばりが下りる頃、黒沼家のホームパーティーが始まった。
 喜多夫が厳かに乾杯の音頭をとると、グラスを次々に触れ合わせる陽気な音が響いた。
「あれ? やのちんがおかわりしてる。 めずらしー!」
「だっておいしいんだもん。 ダイエットなんて言ってられないわ」
「俺も おかわり」
「手料理をほめるには、おかわりするにこした事ないよね~」
 千鶴、あやね、龍、ケントは、食卓の上の料理を次々と空にしていった。
 特に爽子の手作りケーキは好評で、皆が舌鼓を打った。
 皆の笑顔を見渡して、爽子も満足気にほほ笑んだ。
「風早くんは?」
「うん、俺も!」
 翔太も実においしそうにおかわりをした。
 爽子は、翔太の皿に大盛りで取り分けると、隣の席にちょこんと座った。
「おいしい?」
「うん! すっごく おいしい!」
「よかった――」
 二人の様子を観察していたケントが、あやねに耳打ちした。
「…貞子ちゃんと結婚する男は 幸せだね~」
「…いえてる。 でさ、休日には仲よくソバ打ちすんのよ」
「…つーか、幸せ太り確実だな」
 千鶴の突っ込みに、龍は唐揚げを頬張りながら うなずいた。
「なになに? 何の話?」
 爽子がたずねると、あやねと千鶴が 翔太を押しのけ、小声でささやく。見る間に爽子の顔が赤くなった。
「どうしたの? 黒沼」
「いえっ、大したことでは …今度、低カロリーメニューに 挑戦してみようかな」
 翔太には内緒で、新たな目標を掲げる爽子であった。

 ケントと龍が、クリスマスプレゼントの話題で盛り上がっていた。
「えーっ 真田もバラ贈ったんだ、オレと一緒。 気が合うな~」
「まあ、定番だけどな」
「風早は? 貞子ちゃんに何あげたの?」
 質問された翔太は、いかにも公表するのが恥ずかしそうに答えた。
「手袋」
「へぇー、そうなんだ。 じゃあさ、今度の貞子ちゃんの誕生日プレゼント、バラにしたら? 両手いっぱいの花束、喜ぶよ~」
「できるか!」
「え~いいじゃん。 貞子ちゃん、花 好きだよね?」
 話を振られた爽子は、はにかみながら答えた。
「う、うん」
「ほらぁ、きっと内心ではほしいって思ってるんだよ」
「いい! もう用意してあるから! …あっ」
 翔太は 慌てて口を押さえたが、もう遅い。
 爽子は 驚きと興奮で、目を輝かせている。
「あはは、さっすが風早! 爽子バカなだけある」
「爽子バカ?」
「風早のことに決まってんじゃん。 あいつの頭ん中、爽子のことばっかりだからな!」
「あーなるほど」
「納得すんな!」
 昔なじみの千鶴と龍は、翔太にまったく遠慮せず言い放った。
「で、何贈るの?」
「言えるか!」
 翔太とケントの会話がローテーションし始めたところで、あやねがたしなめた。
「もういいじゃない。 楽しみは取っておくものよ。 ね、爽子」
「…し、知りたいな~」
 すぅーと挙手してつぶやいたのは爽子。翔太はぐっと言葉に詰まり、これ以上ないというほど 困り切った表情で答えた。
「…………内緒」
「わはは、風早も秘密主義なんだ! 爽子と一緒!」
「風早、すごい汗よ。 まるで まな板の鯉ね」
「…コイ(恋)だけに?」
「真田 うまい! 山田くん 座布団1枚持ってきて~」
「だーっ! もういい! 俺 飲み物 取ってくる!」
「わ、私も手伝う!」
 翔太が、千鶴、あやね、龍、ケントから逃れるべく立ち上がり、キッチンへ向かうと、爽子が 後を追って来た。
「風早くん、私、知りたいとは思ったけど…あの、無理に 教えてほしいわけじゃ ないので…」
「うん…それは そーだろーけど さ」
「…けど?」
 翔太が身を乗り出した。爽子の瞳は所在無げに揺れた。
「俺にも、黒沼をビックリさせる楽しみをちょうだい。 だから、待ってて!」
「うん…待ってる」
 爽子の繊細で長い指に、翔太の大きな掌が重ねられた。

「ゴホン、…あー 君たち、『賢者の贈り物』 を知ってるかい?」
 喜多夫がおもむろに問いかけた。
「知らなーい!」
「知ってまーす!」
「…おぼろげに」
「確か、クリスマスの話ですよね?」
 千鶴、あやね、龍、ケントが次々と答えた。
「そうだ。 貧しい若夫婦が、プレゼントを買うのに、宝物を売ってしまうんだな。 妻は自慢の長い髪を、夫は金時計を、それぞれ金に替えて、相手にふさわしい品を選ぶんだが…」
「贈ったものは、髪を飾る櫛と、時計用の鎖だったのよね、お父さん」
 陽子が続きを 説明した。
「ああ。 せっかくのプレゼントが台無しになるんだが、互いを思いやる気持ちが、なにより素晴らしい贈り物だったんだ」
「…いい話ですよね」
 翔太が 独り言のように ささやいた。
「クリスマスというのは、そのためにあるんだと 思う。 時々でいい、ほんの少しでいいから、相手の気持ちを想像してみてほしいんだ」
「…相手の気持ちを想像する」
 爽子は膝の上で両手を組み、祈るように目を閉じた。
「ああ、いかんな、年を取るとどうにも説教臭くなる。 さ、そろそろお開きにしようか」
 思慮深い沈黙があたりを満たし、一同はそれぞれの大切な人に 思いのこもった眼差しを向けた。

「今日はありがとー!」
「おやすみー!」
「ご馳走様でした」
「楽しかったー! おやすみ貞子ちゃ~ん」
「みんな、気を付けてね」
 爽子は家の外に立ち、千鶴、あやね、龍、ケントを見送った。
「おやすみ! 後で連絡する」
「うん! おやすみなさい」
 爽子はショールにくるまりながら、遠ざかる翔太を見送った。
 みんなが帰ると、あたりは しんとした静けさに包まれた。
「爽子ー、いつまで外にいるの。 風邪引くわよー」
「…はーい」
 親に呼ばれるまで、爽子はぼんやり立ち尽くしていた。
 爽子は翔太と別れた途端、今まで感じたこともない淋しさに襲われた。
 もっと一緒にいたかった。もっとおしゃべりしたかった。
 爽子は、心がヒリヒリするような切なさを、初めて味わった。
 家に戻ろうとした爽子は、雪を踏みしめる足音に振り返った。
 すると、別れたばかりの翔太がいた。大きく肩で息をしている。
「どっどうしたの? 忘れ物?」
「うん。 黒沼に…渡すものが あって」
「私に? な、なんだろ」
 翔太は爽子の手を取り、すばやく口づけた。
「あっ」
「じゃあ!」
 手の甲にほのかなぬくもりを残して、翔太は足早に遠ざかる。
 爽子がぽかんと見送ると、照れ笑いを浮かべた翔太が振り向き、大きく手を振った。爽子の笑顔が弾けた。
 勢いよく駆けて行く後ろ姿を見送る爽子に、もう先ほどの陰りはなかった。
(風早くんが 家に着く頃 メールしよう。 私から 会いたいって 伝えよう)
 爽子は足取り軽く、暖かい家の中へ入っていった。



 -・-・-・-・-・-

≪ あ と が き ≫

 12月25日の爽子は、失くし物が見つかった翌日のような 晴れやかな気持ちで 過ごしたことでしょう。
 爽子があんまり幸せそうだったので、私もそのおすそ分けにあずかりたくて書きました。やれうれしや。
 最後まで読んでくれて、まことにありがとうございました!

・ 追 記 … 18巻を読む前に書き上げたので、内容が 一部コミックスとはかけ離れたものになっております。補完話と思って読んだ方には申し訳ないのですが、あしからず、ご容赦のほどを<(_ _)>


〈 参 考 文 献 〉

 『賢者の贈り物』 オー・ヘンリー作 結城浩訳
 青空文庫で読めます → http://www.aozora.gr.jp/
 

テーマ:君に届け - ジャンル:アニメ・コミック

  1. 2013/01/11(金) 06:48:39|
  2. 君.に.届.けSS
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:4
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コメント

あっこねーさんへ!

こんにちは!駄文におつきあい頂きまして、ありがとうごさいます!
龍ちづ好きのあっこねーさんにそう言ってもらえて、嬉しいです。初めて書いたので、ちゃんと龍×千鶴になってるか、どうも不安で…(^^ゞ
本誌の龍ちづはちっとも進展がないので、焦れったいですよね。
千鶴の気持ちはどのくらい変化してるの?
龍はいつまで見守るつもりなの?
私もハラハラドキドキしながら、続きを待ちたいと思います。
では、コメントどうもありがとうございました!
  1. 2013/01/12(土) 15:50:11 |
  2. URL |
  3. 藍田海 #-
  4. [ 編集 ]

素敵なお話ー!
風爽も龍ちづもケンあやも爽パパママもみんな愛しくてかわいくて…!
読んで幸せ広がりました。ありがとうございます!
  1. 2013/01/12(土) 09:14:35 |
  2. URL |
  3. あっこねー #-
  4. [ 編集 ]

みあやさんへ!

こんばんは!さっそく読んでもらえて光栄です。
みあやさんが喜んでくれて、私も嬉しいです。
正直、こんなくそ真面目なSS、誰も喜ばないだろうな、けど、まあ いいや!と、自己満足で 開き直ってUPしました。
龍 ちづ ケン あや ときて、まさかの喜多夫w
でも今回は、この4カップルを書かないと収まらなかったので、そう言ってもらえてほっとしました。(*´д`*)〜з
では、コメントどうもありがとうございました!
 
  1. 2013/01/12(土) 02:32:49 |
  2. URL |
  3. 藍田海 #-
  4. [ 編集 ]

わぁ・・・すてき!ひっそり拝読させていただいてました!
続きも待ってたのーー!!
素敵です!ほんっと、素敵☆
みんなキラキラで、爽パパも、なんだか、ぐわっときて。
素敵なおすそわけ、どうもありがとうございます!!!(^^*)
  1. 2013/01/11(金) 19:50:28 |
  2. URL |
  3. *みあや* #-
  4. [ 編集 ]

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