海の底から

備忘録

ブラッカムの爆撃機

ブラッカムの爆撃機 チャス・マッギルの幽霊 ぼくを作ったもの』

 ロバート・ウェストール 作
 宮崎駿 編+タインマスへの旅
 金原瑞人 訳
 岩波書店

 『ブラッカムの爆撃機』は、飛行機大好きなアニメーター・宮崎駿さんが、ウェストール作品に惚れこんで、作者の故郷まで出かけ、その体験を漫画にしたものまで描き添えて、再出版されたものです。(+短編2つ)

 この漫画が面白いんですよ。
 故人であるはずのウェストールさんが、宮崎さんと ベンチに並んで座り、戦時を述懐してるんです。

 まるで『風立ちぬ』のカプローニおじさんと二郎さんみたい。
 本を読むというのは、作者と対話することでもあります。
 それを絵にしたら こんな感じなのでしょう。
 
 
 ネタバレ有り。 薄字の部分は読み飛ばしてください。

<あらすじ>

 イギリス人のゲアリーは、爆撃機に乗る無線士。
 司令部からの命令を聴いて、インターカムで仲間の乗員に伝えるのが彼の役目である。
 エンジン音がうるさい機内では、乗員同士の会話もインターカムである。

 ゲアリーの乗る爆撃機は、ひとくせあるが気のいい仲間6人(パイロット・射撃兵×2・ナビゲーター・機長)。
 その日も、700機のイギリス機が繰り出し、ドイツへの夜間爆撃を行った。
 任務を終え、帰途に着く途中、彼らはブラッカムの爆撃機と鉢合わせした。

 ブラッカムは、無知で野蛮な隊の嫌われ者だ。
 そいつらがドイツの戦闘機を撃ち落とす一部始終を、ゲアリーたちは目撃する。
 ドイツ兵のパイロットが、火を噴き出した機内で燃えている。
 彼の泣き叫ぶ声は、無線でインターカムに筒抜けだ。 恐ろしい光景だった。

 その後、ブラッカムの爆撃機に妙なことが起きた。
 野卑なブラッカムが、恐怖で凍り付いたようになって帰還した。
 それ以来、ブラッカム機に乗った連中が、次々死んだ。

 やがて、ゲアリーたちが、ブラッカム機に乗る順番が来た…。




<感想>

 内容は、イギリス軍の爆撃機に乗るゲアリー無線士の体験として描かれます。
 1941年、ドイツへの夜間爆撃のさなかに起こった、奇怪な事件。
 ゲアリーと仲間たちが見た、ドイツ兵の死が、戦時下のむごい現実を暴き立てます。

 戦争というと、天皇陛下ばんざーい とか、学徒出陣とか、原爆とか、日本国内限定のイメージしかなかった私には、大変新鮮でした。

 ドイツの戦闘機がユンカースという名で、胸がズキズキしました。
 なぜって、あのユンカース博士の名を冠した飛行機だから。
 ナチスを批判して追われたユンカース博士と同じ名前の飛行機に、ハイル・ヒットラーと叫ぶ若いドイツ兵が乗ってるんだもん(;_;)

 死んだドイツ兵の幽霊が、自分を殺したブラッカムの爆撃機にとり憑くなんて、ナンセンスでユーモラス。
 それでいて、幽霊が実体をもった生き物のごとく語ります。
 殺された無念を、恨みを、屈辱を、恐怖を。
 こんなことがあっても不思議じゃないな…と、読後、妙に納得させられてしまいました。


 1929年生まれの作者は、当時12歳。 もちろん出陣していません。
 なのに、まるでその場で見て来た事のように書いてあるんです。

 見なければならなかったものを、想像力と取材によって、必死で追いかけたのでしょう。
 ウェストールは、戦争というつらい体験をした少年時代の自分に、彼らの死を忘れるな、戦う勇気を持て、と呼びかけています。
 この人は、ひとりで過去と戦っているのです。

 戦争反対とか、軍国主義への批判とか、ありきたりの戦記ものではありませんでした。
 まるで戦地の実況中継みたいなリアルさで、人間心理をえぐり出す筆致の見事さに圧倒されました。
 これが児童文学として読める今は、平和ないい時代なのでしょう。 けれど決して忘れてはならない過去もあるのだと、作者は空想小説の中で語りかけています。

 戦争体験を語る日本人は、殺された、もしくは殺されそうになったことはいくらでも話すけど、殺したことは胸にしまって隠してるから、どこか嘘くさいと思っていました。
 戦場では 何が起こるのか? 戦争とは何か?
 それを、少しだけ感じることができました。
 

テーマ:児童書 - ジャンル:本・雑誌

  1. 2013/09/15(日) 21:33:33|
  2. 本&漫画
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