海の底から

備忘録

カインのこと

 『人類哲学序説』(梅原猛 著 岩波新書)、一通り読んだものの、疑問ばっかり浮かんで感想がまとまりません。 200ページちょっとの本ですが、内容は濃いです。

 哲学とは―人間はどう生きるべきか―に、全人類共通の答えを見出そうという学問ですが、ちょっと無理がありませんかね。
 個の自由があったからこそ、人は発展してきたというのに。
 出だしから疑問にぶつかって、考えがその先へ進まなくてね。


 ひとつ面白かったお話は、旧約聖書の創世記について。
 なぜ神は、アベルの捧げた羊には目を留めたのに、カインの捧げた農作物には目を留めなかったのでしょう。
 そりゃ、殺人は悪ですが、露骨にえこひいきしておいて、カインがアベルを殺したら追放しちゃうなんて、神さま冷たすぎやしませんか。
 と、ずっと引っかかっていました。

 ところがどっこい。
 梅原さんによると、この物語は、農民(カイン)と牧畜民(アベル)に分かれたユダヤ人について語っているそうです。
 農民は神の怒りに触れ、砂漠を放浪する民となり、やがて羊を飼うものとなった…ということを表しているそうです。

 つまり、ユダヤ文明は牧畜文明だってこと。
 農民と牧畜民との間で、争いもあったでしょう。 畑を羊に踏まれたり、作物を羊に食われたりしてね。
 そう考えると、カインの怒りが何だったのか、想像しやすいです。

 「神話は歴史の反映なのです」
と、自論を語る梅原さんの説明に、胸につかえていた疑問が、ちょっと解けました。
 過酷な砂漠地帯で生きる民族の神話には、人々の血塗られた歴史が反映されていたのでしょう。
 温暖な日本で暮らせて、私はほんとに良かったなぁ。


 ――― 追 記 ―――

 農民がどうして神の怒りに触れたのか、それは、おそらく農業が生態系を破壊するからでしょう。
 広い畑に1つの作物を育てるということは、他の植物が生きられないということです。
 多くの生き物が共存することを許さない、人間の傲慢なのです。

 梅原さんが書いた叙事詩『ギルガメシュ』に、国を栄えさせるために森を切り、神を殺したギルガメシュ王の苦悩が描かれていました。
「人間が、人間のことだけを考えて神々を殺したり、他の生きとし生けるものの生命を奪ったりするのは間違いだ」
 ギルガメシュ王は、いまわの際にこう懺悔し、死んでゆきます。

 ギルガメシュ王とカインは、同じなんです。 良かれと思ってやったことが、罪だった…。
 それじゃあ、生きるのが罪ってことになってしまう。
 欲深で 業の深い 人間とは、一体なんなんでしょう。
 

テーマ:最近読んだ本 - ジャンル:本・雑誌

  1. 2013/09/24(火) 23:54:23|
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