海の底から

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スノードーム

『スノードーム』 アレックス・シアラー 著 石田文子 訳 求龍堂



 「人が恋に落ちるのは、重力のせいではない」と、かのアルベルト・アインシュタインは言いました。
 が、男女の間に存在する引力の謎は、天才科学者でも解けないでしょう。
 この小説にアインシュタインは登場しませんが、彼の相対性理論がちょろっと出てくるので、上記の言葉を思い出しました。
 
 
【あらすじ】

 イギリスのとある街に、売れない絵描きと、美しい踊り子と、醜い芸術家がいました。
 絵描きの男には、別れた女との間に生まれた、可愛らしい息子がいました。
 絵描きの息子は、いつか父親が、愛する踊り子と結婚し、3人で暮らすことを願っていました。
 しかし、醜い芸術家は二人の仲を裂こうとします。 美しい踊り子に恋していたからです。
 そしてある日、踊り子が行方不明になり、彼女を捜していた絵描きの男も、失踪してしまいました。
 取り残され、悲しみに暮れる息子を、醜い芸術家が引き取って育てることになります。


 【感想】

 主人公は、売れない絵描きの息子・クリストファーですが、お話は父親とその恋人と、芸術家の3人が中心になって動きます。
 クリストファーの目線で語られる恋物語は、よくある三角関係から、略奪愛へと発展します。
 二人をさらったのが醜い芸術家・エックマンであることは、設定でピンくるというもの。

 ここから話はSFホラーへ。
 まるで『フランケンシュタイン』か、『ジキル博士とハイド氏』のよう。
 科学によって醜い怪物が生まれる、というイメージは、イギリス人の内面に巣食った心象なのでしょうか。

 この物語では、醜い芸術家が、闇の速度を生み出すという恐ろしい装置を開発します。
 ここからは、エックマンの独壇場。
 恋敵の息子・クリストファーを引き取り、教育と安全な生活を与え、一方では、さらった二人を監禁し、苦しめ続けるのです。
 すべては彼の掌の上です。
 父親がいなくなって、不安でたまらないクリストファーの心を知ってて、何も思わなかったはずはないのですが、エックマンは、自分にとって好都合な道を選びました。

 エックマンに引き取られたクリストファーは、彼の本性を知らないまま、一緒に暮らします。
 父親に似てハンサムで、賢くてやさしくて、思いやりもユーモアもある、素晴らしい青年に成長します。
 そして、育ての親が実の親にした仕打ちを知るのです。

 エックマンは、愛する者に愛されたいという、誰もが思う欲望を求めたにすぎません。
 いかし、美しい踊り子を手中にしても我がものにできず、実の息子のように可愛がっていたクリストファーから愛されることもありませんでした。

 どうすればよかったのか。
 例えば、二人をさらった後、正直に告白すれば、許されたのか。
 …無理でしょう。 なぜなら、二人を元の世界に戻すことができないからです。
 それなら何も知らせず、一緒に暮らしていた方が幸せです。 自分にとっては、ですが。

 でもエックマンを非難する気は起きないんですよね、なぜか。
 彼が精神を病んだのは、彼のせいではないからです。
 チビでデブで不格好な自分を呪う彼は、常に身だしなみを整え、誰にでも礼儀正しく接します。
 彼は社会的ステータスという鎧を着ていないと、外にも出歩けないほど、小心なのです。
 誰にでもこういう傷の一つはありますが、エックマンの場合は回復不能なほど、痛めつけられていました。 そんな彼を嘲り罵る気にはなれませんでした。

 美しい者を愛するのはたやすく、醜い者を愛するのは難しい。
 愛を巡る人間の飽くなき欲望は、果てがない。
 …そんなことを噛みしめながら一気に読みました。
 

テーマ:読書メモ - ジャンル:本・雑誌

  1. 2013/11/06(水) 20:21:22|
  2. 本&漫画
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