海の底から

備忘録

かぐや姫の物語

 月曜日は非日常を体験するのにうってつけの日。
 いつもの通勤コースを、いつもの左ではなく右に曲がると、会社と現実がどんどん遠ざかっていきます。
 アクセルをやや強く踏み込むと、落ち葉がフロントガラスに当たって吹き飛ばされていきました。
 風にあおられる沿道の木の葉のように、私の心もざわめいていきます。 ざわざわ、わくわく。
 通常とは違う時間と場所が、いつもと違う景色を垣間見せて、だんだん気分が乗ってきました。
 よし、体調も万全。 何しろこの映画は、2時間超えの大作ですから。
 
 
 シネコンは大型スーパーの中にあるため、駐車場はまばら。 月曜日だもんね。
 と思ったら、映画館のチケット売り場には行列が。 女性は1000円で観られるレディースデーだからか、予想より多い人出。
 今は平日休みなんて普通か。 ちっ、読みが甘かった。(私は有給休暇)

 実は私、高畑勲監督作品を映画館で観るのは2回目。
 『火垂るの墓』があまりにも強烈だったため、その後の作品を観る気になれなかったの(^^ゞ
 頭脳明晰な人間は、対象と一定の距離を置き、論理的に物事を捉え、冷静に考えます。 それこそ怜悧冷徹に。
 高畑勲の人を見る目は、冷たいと思います。 そこが苦手でね(^^ゞ
 この人の前に立つと、自分が丸裸にされてるような気がして、怖くなってしまいます。 私がいかに浅薄な人間であるか、すぐ見抜かれそう。 ま、そういう機会はほぼ100%訪れないでしょうが。

 高畑さんは、頭はいいんですが、それが予算や時間の使い方に生かされないんです。 もっと効率化してスケジュール調整すれば、もっとたくさんの作品を作れたでしょうに。
 いや、だからこそ、アニメーションでしか表現できない作品を、他のアニメーターが真似できない方法で、作れたんだろうなぁ。


 以下、ネタばれ。 観てない人は見ちゃだめです。
















 観終わった直後は、なぜか泣きながら怒っていました。 無性に腹が立ってしょうがありませんでした。
 かぐや姫にじゃないですよ。
 彼女は絶世の美女なんかじゃなくて、植物や動物を愛し、よく笑う、とても愛らしい娘さんでした。
 そんな姫を苦しめた男たちに、極刑を言い渡したいです。
 そりゃ着物脱ぎ捨てて、全力ダッシュしたくなります。

 姫が猛然と山を駆ける予告編を何度も観て、あの単衣の多さから、裳着の儀式を抜け出したのでは?と推理して、大人になるのが嫌だったのかな?なんて、的外れな想像をしてました。
 そうじゃなかった。 姫は、男たちの見世物にされるのが嫌だったのです。

 ジブリに登場する男は大抵頼りなくて、女がしっかり者として描かれます。
 例えばサツキのお父さん(となりのトトロ)は、生活能力がなくて弁当作りも忘れるし、ハウル(ハウルの動く城)は死ぬのを承知で悪魔と契約したり、二郎さん(風立ちぬ)は恋人の看病もろくにせず飛行機作りに没頭してました。
 しかし今作は、もう最悪。
 姫に求婚する貴公子たち(どこが貴公子やねん)は、女を美しさのみで評価して、うわべだけの愛を押し付ける、おぞましい生き物でした。
 男の穢らわしさを、これでもかと見せつけられました。 いきなり姫を抱きすくめ、誘拐しようとした帝はサイテーの犯罪者です。
 思春期の女の子にこの映画を見せたら、男性不信になること間違いなしw
 彼らの所有物になるまいと、無理難題でかわそうとした姫は、わがままでも強情でもありません。 意志を持った人間ならば、己の尊厳を守ろうとするのは当然ですから。

 しかしながら、姫を最初に苦しめるのは、翁なんですよね。
 娘にとって最初に接する男となるのが父親なんですが、息子とは違う形で、娘と父親も対立せざるを得ないようです。
 翁が姫をお屋敷に住まわせ、手習いをさせ、貴族と結婚させようとしたのは、姫を幸せにしたかったから。
 親が良かれと思ってしたことが、子どもにはかえって苦しみになるというのは、現代にも通じる真実です。

 すべてを捨てて、ここではないどこかへ逃れたい…と姫は願って、故郷の村へ走ります。
 でも家はすでに人の手に渡り、かつての仲間は他の土地へ移り、帰る場所を失った姫はひとりぼっち。
 なんかもう八方塞がりで、結局月へ帰るしかなくなって、自由に生きるのってそんなに悪いことなのかと、やり場のない怒りと悲しさと、やりきれなさが残りました。

 帰りがけに、ペットショップでじゃれつく子犬や子猫を嬉しそうに見入る人々を見かけて、思わず目を背けました。 ショーケースに入れられて 見世物にされる動物たちが、かぐや姫を連想させて いたたまれなくなりました。
 見た目の愛らしさだけで好きになるのはニセモノなんだ。



 以下、さらにネタばれ。 注意されたし。








 姫の犯した罪は、月の人でありながら、地球に憧れたこと。
 だから罰として、地球におろされました。 その穢れた世界で苦しむように。
 清浄で何の苦しみもない月世界と、不浄で裏切りと争いと愛別離苦のある地球。
 ジブリ作品を観続けてきた人にはおなじみのテーマです。
 これは浅はかな二元論ではありません。 姫もきっと、私と同じ答えを言ってくれるでしょう。
 清浄と汚濁こそ生命であり、苦しみがあるから喜びがあるのだ、と。
 姫もほんのわずかでしたが、人と心の交流をし、巡り来る季節の移ろいに感動していました。
 では私が1番嬉しかったことは何か、と問われると、うーん、ないですねw
 姫やハイジみたいに地べたをゴロゴロ転がって、腹がよじれるほど笑って、笑いがこみあげて仕方ない、そんな喜びといつか出会えるかもしれないと、楽観的に考えてます。

 

テーマ:映画 - ジャンル:映画

  1. 2013/11/25(月) 21:31:16|
  2. アニメ>ジ.ブ.リ
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