海の底から

備忘録

あらゆる小説は模倣である

 ドイツの古い詩について書かれた本に、『走れメロス』(太宰治 著)とよく似た内容の詩を見つけました。
 あまりにもそっくりなので、ネットで検索してみたら、『メロス』の方が、この詩をもとに書かれたことを知りました。

 本家は、フリードリヒ・シラーの物語詩『人質』。 冒頭をご紹介。

  暴君ディオニュースのもとへ
  ダーモンはしのびこんだ、短剣を懐にして。
  彼はとらえられた。
  「この短剣で何を企んだのだ、いえ。」
  暴君が陰険に問いただす。
  「この町を暴君から自由にするためだ。」
  「はりつけにしてやる、後悔するがいい。」

  (『ジュニア版 世界の詩 ドイツ』 神品芳夫・神品友子 共著 さえら書房 より)


 この後、ダーモンが妹の結婚のために、3日の猶予を頼むのも、王の元へ友を人質として残すのも、帰途、豪雨や山賊に遭い、足止めを食らうのも、友の下僕が引き返すよう忠告するのまでそっくり。
 ラスト、刑の執行に間に合い、抱き合う二人の友情に感動した王が改心するのも同じです。
 詩は小説より簡潔で、調べは太宰より格調高かったです。(訳文を読んだだけですが)
 文豪が平気でパクってたことにガッカリしました。
 でも他の人は、この事実を知ってて名作と評価している…どうしてなのか疑問に思いました。

 『あらゆる小説は模倣である』(清水良典 著 幻冬舎新書)には、夏目漱石も村上春樹も真似っ子で、寺山修司に至ってはパクリの名人だったとさえ書いていて呆然。
 宮崎駿さんのことまで、ご丁寧に例を挙げて紹介していました。
 『風の谷のナウシカ』に登場する剣士・ユパと、飛行機メーヴェは、フランスの漫画家・メビウスの模倣であると。
 宮崎ファンの私も、これは知ってたけど…清水氏のいう通り、パクリじゃなくてオマージュです。 メビウスさんも宮崎さん大好きで、真似されて喜んでたもん。

 …じゃあ作家の個性って何だろう、独創性って何?
 この本は、そんなオリジナリティへのこだわりを解きほぐす、小説の指南書です。
 堂々と模倣し、新たな作品を生み出してほしいという、書き手への激励なのです。

 誰もが見落としているものを拾い集め、取り込み、アレンジを施す。
 そこにこそ、オリジナリティがある。
 常にアンテナを張って、良いものを吸収する姿勢が大事なのですね。

 とすると、太宰の『メロス』は、いわゆる盗作とは違いますね。
 素晴らしい詩の中身を堂々と盗んで、劇的で情熱的な文章で飾り立て、現代人らしい心の葛藤を追加して、ラストはもっと盛り上がるよう、二人が殴りあってから抱擁する、いい改変。
 うーん、小説って奥が深いです。
 
  1. 2014/08/10(日) 19:12:11|
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