海の底から

備忘録

旅人

『旅人  湯川秀樹自伝』 湯川秀樹 著 角川文庫


 引力と重力の違いも分からん人間が、何故この本を読もうと思い立ったのか。
 それは、哲学者の梅原猛さんが、
「『旅人』は日本の自伝文学のうちの白眉である」
 (『百人一語』 梅原猛 著 新潮文庫 より)
と、ほめていたからです。 おっしゃる通り、
「簡潔であり、率直であり、しかも成功者の自伝にありがちな自負や虚栄が全くない」
ので、これを読んだら誰だって、湯川さんを好きになるでしょう。 私は好きだな、この人。

 内容は、幼年期から、ノーベル賞の対象となった「中間子論」を書き上げた27歳頃までの、自身と周りの人たちについての叙述です。
(湯川さんが中間子論を発表したのって、堀越二郎さんが九試単座戦闘機を設計したのと同じ、昭和9年だ)
 明治から昭和初期の町並みや、人々の暮らしぶりも、学者らしい観察力で細かく描写されています。
 アインシュタインの出現が世界に与えた衝撃や、当時の物理学が日進月歩で発展していたことも。
 自分のお見合い話まで、忠実に書いたくだりは、特に微笑ましいエピソードとして読みました。
 父親が厳格な学者で、あまり可愛がられなかったと、言外にほのめかす程度に書かれています。 7人兄弟の中で1番理解されなかったようで、さぞ寂しかったでしょうね。


「弁解することが、きらいだった。何故こんなことをするのか、どうしてこういうことになったか、というような質問に会うと、きっと黙り込んでしまう。ある時はそれがそのまま、父に対する抵抗であったように思う。(中略)
「言わん」
という言葉のかげに、どう思われてもいいと思う、あきらめもあったかもしれない。」
「とかく男の子は、父親のいうことをそのまま受け入れようとしないのだから。 ――私にも、父親のいう通りにしなかった覚えがあるのだから。――」

 (『旅人』 より P.52 P.178)


 引っ込み思案で、頑固で、孤独で、厭世観につきまとわれた人。
 人として未熟なままでも、弱点を抱え込んだまま、生涯を全うした人。
 私には 湯川博士の理論のすごさは 少しも理解できません。残念ながら。
 それでも、自分のことを飾らないで書いた、真面目さと謙虚な人柄は、とても良いなぁと思いました。
 

テーマ: - ジャンル:本・雑誌

  1. 2014/11/30(日) 20:48:39|
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